否定と肯定 Denial

●「否定と肯定 Denial」
2016 イギリス・アメリカ BBC Films,Krasnoff / Foster Entertainment,Participant Media and more 110min.
監督:ミック・ジャクソン  脚本:デヴィッド・ヘア 原作:デボラ・E・リップシュタット
出演:レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール、アンドリュー・スコット他
e0040938_18154211.jpg
<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
映画を観て得る感想には、一口で「面白い」と言っても、"Fun" であったり、"Interesting"であったり、
"Moving"であったり、"Exciting"であったりと色々だ。だから映画って面白いのだが、本作を観終えて感じたのは
「観てよかった」ということ。

一見粛々と進む法廷劇であるが、その裏にあるものは非常に今日的であり、製作者たちが何故今これを
作ったか、という思いが伝わってくる。実話ということ、ベースになる原作本があることなどを鑑みても
よく出来た脚本(脚色)と、英国俳優たちの抑制の効いた説得力の有る演技、場面の切り替え、テンポ、
どれをとっても文句ない作品だ。本来個人的にこの手の映画が好きだということもあるのだが、今年見た
映画の中では指折りの出来と感じた。

本作はユダヤ人の女性歴史学者デボラ・E・リップシュタットが、その著書「ホロコーストの真実」に
おいて、イギリスの歴史家ディヴィッド・アーヴィングにイギリスの出版社ペンギン社とともに
名誉毀損で訴えられた裁判を描く実話モノ。
アーヴィングは筋金入りのナチ、ヒトラー崇拝者であり、ホロコーストは無かった、と主張する学者だ。

世界が非寛容となり、チカラの強いものの論理が通じ、フェイクニュースに代表されるように、真実の
見極めが難しい世の中にあって、本作は、「嘘を見抜く力を持たなくてはならない」「影響力を持つ人の
嘘や訴える人の信念から出た虚構は真実に見えることを見破らなくてはならない」という今を生きる
私達全てに対しての警告である。今年に入ってから我が国で喧しい「モリカケ問題」「自衛隊文書」など
現政権下のさまざまな「真実のような嘘(おそらく)」や、本家トランプ大統領による、さまざまな
「フェイク」、我が国では未だにこの映画と同じようなことが言われている「従軍慰安婦」「南京大虐殺」と、
いろんな事象がが頭に浮かんだ。

映画ではまずリップシュタットの授業に乗り込んだアーヴィングが1000ドルを手に、「ホロコーストを
命じた命令書があるなら1000ドルやるぞ!」という、分かりやすい差別主義者の主張から始める。

その後は難しい法廷劇だが、平易な論点で上手く問題点を浮き彫りさせた脚本と監督、それに応えた俳優陣の
迫力ある演技。時間が経つのを忘れて見入っていた。イギリスの裁判は被告が無罪立証をしなくてはならず、
推定無罪という概念もない。その中で、リップシュタットは、何故自分が「ホロコーストは無かった」と
立証しなくてはならないのだと理不尽に感じたが、ランプトン弁護士(トム・ウィルキンソン)の誠実で
巧妙な法廷戦術で裁判を優勢に進めていく。対する原告アーヴィングはたった一人で戦っていた。
歴史においては都合のいい虚構を突き崩すのはなかなか大変なことだ。しかしランプトンは冷静に事実・
真実に基づきリップシュタット側の論理を築き、相手側の虚構を崩していく。

リップシュタットの大弁護団は膨大な史料・資料を分析し、原告の主張の矛盾と虚偽を突き、さらに
そこからホロコーストの実態を浮かび上がらせるという戦術を取った。リップシュタットには法廷で
口を開かないこと、証言しないこと、なぜならば、アーヴィングの目的は彼女を貶めることであり、そこから
ボロを掴み、ホロコースト否定論を正当化しようとするから。ホロコーストの生き残りや遺族は証人としない、
とも。生き残りを証人台に立たせたところで、反ユダヤ主義者は、なんの痛痒も感じない。彼らの信念はそんな
ことでどうにかなるものではないからだ。逆に生き残った犠牲者らに、目の前のホロコースト否定論者に
よって傷つけられ、再び辛い思いをさせてしまうことになるからだ。
ランプトンは冷徹な事実の積み重ねで敵の矛盾を1つ1つ突き崩していく、それしかない、だから
リップシュタットにも証言台に立たせないと決めたのだ。

最後に裁判長が、「虚偽を信じ切っているものの主張は嘘といえるのだろうか」という言論の自由に対する
問題を提起してきた。そこは弁護団も詰めていないところで、リップシュタットらは判決に不安を抱くように
なった。原題の「Denial」は「否認」と訳される心理学の言葉の一つで「眼の前の事実(真実)を、自分の
信じるものとは違うとして受け入れない(否認・拒絶)すること」。日本でもそんなことをマスコミでたれ
流している人物、すぐに思い浮かぶと思う。

判決はアーヴィングの主張を嘘と認定し、原告敗訴とした。リップシュタットの判決後の会見での
「表現の自由は説明責任を要求する」という一言は、我が国の政治家やメディアに関わる人、ネット民すべての
心にねじ込んでやりたい言葉だった。 人の話に一切耳を貸さない差別主義者(Denial)と地球上に生きて
いかなくてはならない我々は、この映画から学ぶことは多い。

「ナイロビの蜂」でオスカー助演女優賞を獲ってから12年。更に成長したレイチェル・ワイズの姿がここに
あった。(旦那はダニエル・クレイグなんだよなあ)
e0040938_18161317.jpg
<ストーリー>
ナチスによる大量虐殺はなかったと主張するホロコースト否定論者とユダヤ人歴史学者が裁判で争い、世界中の
注目を集めた実在の事件を映画化した法廷ドラマ。アメリカの法廷での戦い方との違いに戸惑いながらも、
勝利のために歴史の真実に迫っていくヒロインをレイチェル・ワイズが演じる。
監督は近年はドキュメンタリーを数多く手がけているミック・ジャクソン。

1994年、アメリカのジョージア州アトランタにあるエモリー大学で、ユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・
リップシュタット(レイチェル・ワイズ)が講演を行っていた。彼女はイギリスの歴史家デイヴィッド・
アーヴィング(ティモシー・スポール)が訴える大量虐殺はなかったとする“ホロコースト否定論”の主張を
看過できず、自著『ホロコーストの真実』で真っ向から否定していた。

ある日、アーヴィングはリップシュタットの講演に突如乗り込み、名誉毀損で提訴する。訴えられた側に
立証責任がある英国の司法制度で戦うことになったリップシュタットは、“ホロコースト否定論”を崩さな
ければならない。彼女のために英国人による大弁護団が組織され、アウシュビッツの現地調査など、歴史の
真実の追求が始まる。2000年1月、多くのマスコミが注目するなか、王立裁判所で始まった歴史的裁判の
行方は……。(Movie Walker)

<IMDb=★6.6>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:83% Audience Score:71%>



トラックバックURL : https://jazzyoba.exblog.jp/tb/26298112
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
by jazzyoba0083 | 2017-12-21 12:00 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)