ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 The Post

⚫「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 The Post」
2017 アメリカ Amblin Entertainment,DreamWorks,Participant Media and more. 116min.
監督・(共同)製作:スティーヴン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ
   ブルース・グリーンウッド、マシュー・リス他
e0040938_22053926.jpg
<評価:★★★★★★★★☆☆+α>
<感想>
スピルバーグが本作より前に創りたい映画があったのにもかかわらず、これを創ったのは何故か、という
ことに尽きる。極めて政治的な背景の中で出来上がった作品だ。トランプ大統領の登場。メリル・ストリープが
主演というのも何か因縁を感じる。
この物語自体は、直後に起きる「ウォーターゲート事件」とセットにしてアメリカのメディアの健全性を、
あるいは合衆国憲法修正1条の意義を深く訴える象徴的事件としてよく知られている。ただ、大統領が辞めた
ウォーターゲートに比べ、物語性としてやや地味なので、これまで映画にはならなかったのだろう。

だが、トランプの登場で、俄然この物語を映画にしても着目される素地は出来、また作る意義も出来たのだ。
日本ではもうすぐ公開されるリーアム・ニーソンが「ディープ・スロート」を演じた「ザ・シークレットマン」は
「ウォーターゲート事件」が舞台だが、これも政治が国民に嘘を付くことを許さないアメリカという国の基本を
描いている。(暴かれない嘘はたくさん他にもある国なんだけど、そのあたりを描く映画は「スノーデン」他
たくさんある) 本作に引き続き、「ザ・シークレットマン」を見るとまるで1つの映画のように感じるだろう。
本作のエンディングはまさにそのように出来ている。

メリル・ストリープは本作で21回目のオスカー主演女優賞ノミニーとなったのだが、まさに、彼女が本作の
主役である。この頃、アメリカの代表的クオリティペーパーであったニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト
は同族経営であり、メリル演じるキャサリンは、(ポスト紙はキャサリンの父で富豪のユージン・メイヤーズに
よって買収されたのだが)社長であった夫の急死(自殺)で苦労を知らないマダムから発行人となった女性だ。
当時、女性経営者は珍しい上に、ジャーナリズムにはほぼ素人。ただ大学時代に労働法を学ぶなど社会問題に
対する意識は高かったようだ。

その彼女が、タイムズ紙とポスト紙に内部告発の形で持ち込まれた「ベトナムにおける政策決定の歴史1945~
1968」という分厚い書類を巡って、苦労に苦労を重ね、しかし最後には報道の自由を守る決心を付けるまでの
勇気ある姿を描くのが本作のメインストーリーだ。というかメインストーリーしか無いド直球の物語。
この極秘文書は、太平洋戦争が終わってから、このかたアメリカは勝算がないことを分かっていて戦争に突入し
国民を騙して、大勢の若者を戦場に送り込み殺しているのことが書かれていた。しかし、これを新聞に載せると
いうことは、冷戦時代にあった当時アメリカの国益を大きく損なう恐れがあった。知ってしまった報道機関は
どうしたか、がこれまで多くの映画や書籍になってきているのだ。こうした新聞社の状況を子供や親が出てくるわけ
でもなく、終始新聞社が舞台であり経営者としての、また報道人としてのキャサリンの苦悩が描かれる。
このキャサリンの姿をまさにメリルにキャサリンが乗り移ったように素晴らしい演技を見せる。
トム・ハンクスも霞む力演だ。

上記の極秘文書をタイムズ紙は時をおかず連載を始め、ニクソンに国家の利益に反するとして連載差し止めを
訴えられ、司法がこれを認めたため掲載は下級審の判断で停止されていた。そうした状況故にキャサリンのポスト紙
が掲載するかどうかは余計に大きな決断となったのだ。経営陣には当然、社が潰れる、潰されると反対するものも
少なくない。
しかし、編集長ベン(ハンクス)を中心にした現場の士気は高い。ぎりぎりまで悩んだキャサリンは掲載を
決断する。当然ニクソンに訴えられる。裁判はすぐに最高裁に持ち込まれ、その判断が注目されたが、結果は
6-3で新聞側が勝利した。

この裁判でポスト紙の経営のひとりが裁判官に尋ねられる。「ノルマンディー作戦を事前に知ったら報道したかね」
と。当然のことながら経営者のひとりは「それとこれは比較出来ない」と反論する。正論だろう。

映画は、民主党選挙本部があるビルで、夜警が本部の部屋のドアが破られて誰かが侵入した形跡を発見するところで
終わる。これは、その後アメリカの政治史最大のスキャンダルとなり、時の大統領が辞任に(弾劾決議はされたが
弾劾される前に辞任)追い込まれるというジャーナリズムと政治の大きな事件、「ウォーターゲート事件」の
始まりだった。この事件でも、キャサリン率いるポスト紙は、ニクソン政権と真っ向から対決し、新聞の役目を
十二分に果たしたのだった。

トランプが大手新聞社やテレビを「フェイクニュース」と言い、真実は別にある、とニクソンとはまた違った
形で報道の自由と対立している。アメリカの大新聞、テレビネットワークの経営者はほとんど民主党支持という
側面があるとはいえ、アメリカのメディアはキャサリンの頃とは違った権力との対立構図の中にいる。
翻って、我が国は、と見れば、新聞を軽視する政府の存在はアメリカと変わらないものの、メディアがそれに
毅然と対決しているのかといえばいささか心もとない。もちろん、「社会の木鐸」として頑張っている新聞や
TV番組もあるにはある。だが、アメリカほどのパワーが無いのは残念だ。国民性と言ってしまえばそれまで
だが、政治の嘘、悪行は必ず暴かれなければならない。「権力は腐敗する」からだ。メディアが国策言論機関と
なっている中国やロシアの国民が幸せだとは到底思えない。国民が悪いのではなく、知らないからだ。そして
知らしめないことの、あるいは知ってしまった挙げ句の怖さをそれらの政府はよく知っているからだ。

3年前オスカーで作品賞を獲った「スポットライト・世紀のスクープ」もワシントングローブ紙の宗教に切り込んだ
素晴らしい報道の様子を描いたものだった。こうした作品を創り、またこれを称揚する制度のあるアメリカという
国、悪いこともたくさんやっているが、権力に対するカウンターパワーの健在さを見るのである。
この裁判で最高裁判事の「報道機関は政治家や権力に使えるものではない。報道機関は国民に仕えるものである」
というセリフを今の日本の最高裁判事は同じ状況になったら言えるだろうか?

本作は政治的テクニカルタームがたくさん出てくる、基本的にセリフ劇なので、当時の政治情勢が分かっていないと
眠くなるかも知れない。観に行くなら是非予習をしていって頂きたい。
e0040938_22060868.jpg
<ストーリー>
スティーヴン・スピルバーグ監督がメリル・ストリープとトム・ハンクスを主演に迎え、時の政権に屈すること
なく言論の自由を守るために戦ったジャーナリストたちの矜持と覚悟を描いた社会派実録ドラマ。ニクソン
政権下で機密文書“ペンタゴン・ペーパーズ”を公開し、ベトナム戦争の欺瞞を暴き出したワシントン・ポスト紙に
焦点を当て、就任したばかりの女性発行人キャサリン・グラハムが、政府を敵に回し、経営危機を招く危険を
冒してでも記事にすべきかという重い決断を下すまでの葛藤の行方を描き出す。

 ベトナム戦争が泥沼化していた1971年。ニューヨーク・タイムズはベトナム戦争に関する政府に不都合な事実が
記載された最高機密文書、通称“ペンタゴン・ペーパーズ”についてのスクープ記事を発表する。
アメリカ中が騒然となる中、ニクソン政権は裁判所に記事の差し止め命令を要求する。タイムズが出版差し止めに
陥る一方、出遅れたライバル紙のワシントン・ポストでは、編集主幹のベン・ブラッドリーが文書の入手に
奔走する。
やがて全文のコピーを手に入れたポストだったが、それを公表すれば裁判となって会社の将来を危うくしかねず、
経営と報道のはざまで社内の意見は大きく二分する。そしてそんな重大な決断が、亡き夫の後を継ぐ形でいきなり
アメリカ主要新聞社史上初の女性発行人となったキャサリン・グラハムに託されたのだったが…。
(allcinema)

<IMDb=★7.3>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:88% Audience Score:73% >



トラックバックURL : https://jazzyoba.exblog.jp/tb/27173204
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
by jazzyoba0083 | 2018-04-01 11:00 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)