フィラデルフィア Philadelphia (名画再見シリーズ)

●「フィラデルフィア Philadelphia」(名画再見シリーズ)
1993 アメリカ TirStar Pictures.125min.
監督:ジョナサン・デミ
出演:トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェン
   アントニオ・バンデラス、ジョアン・ウッドワード、チャールズ・ネイピア他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
このころのトム・ハンクスは本当に勢いがあった。翌年には二年連続でオスカー主演男優書を「フォレスト・ガンプ
/一期一会」で獲得する。次の年の「アポロ13号」では3年連続か!と騒がれていた頃だ。
本作はトムが主演男優賞を、ブルース・スプリングスティーンとニール・ヤングが歌唱賞を獲得した。
一方、作品賞や監督賞ではノミネートもされていない。(作品賞、監督賞は「シンドラーのリスト」の
スピルバーグ) なにか、この年のオスカーの受賞のありように本作の微妙な立ち位置が伺えてしまうのは
私だけだろうか。
本作は既に観ているのだが、まだこのブログを開設する以前であったため、この程再度鑑賞し感想を記しておこう
と思う。

今は早い治療を開始し、クスリを継続して服用すれば決して死病ではなくなったし、教育や啓発のおかげで
偏見も減ったが、1980年代後半から1990年前半、つまりこの映画が舞台になっている時代においては、
エイズは、かつての日本の「結核」のように、同席さえ嫌われた偏見に満ち、かつ治療法が見つかっていない
「死病」でもあった。またLGBTに対する偏見も当然今ほど市民権を得ていない時代である。

こうした時代にエイズに罹患し、それを黙って仕事をしていた辣腕弁護士アンドリュー・ベケット(トム)が、
エイズを理由に弁護士事務所を解雇を無効として裁判に訴える。彼のパートナーがまだ若かりしアントニオ・
バンデラスである。
皆さんご指摘の通り、体重を落とし、痩せぎすなエイズ患者を演じ、最後は壮絶(とは言え、彼の顔には
充足した幸せ感が浮かんでいたと思うのだが)な最後を遂げるトム・ハンクスの演技は文句のないところだ。
だが、死の床でバンデラスに「もう逝くわ」と笑顔を見せるとアップはまだ健康感があるな、これなら
「ダラス・バイヤーズクラブ」のマシュー・マコノヒーの方が凄みがあったな、と思ってみていた。

そして、トム・ハンクスの裁判を弁護することになる黒人弁護士ジョー・ミラー(デンゼル・ワシントン)の
演技が素晴らしかった。彼はホモ野郎などとんでもないという主義の持ち主であったが、根っからの
正義漢でもあった。その保守的な(というかその頃は一般的)考えが、ベケットと触れ合い、弁護を引き受けて
行く過程で、ベケットの生き様を見るにつけ、自らの考えが変わっていく過程は、なかなか魅せる。

特にマリア・カラスのレコードを流し、その詩を涙ながらに語るベケットとそばにいてそれに聞き入るジョー。
そして、彼は無条件に人を愛するということの大切さを得心したのだ。そしてジョーは家に帰り、もう寝ている
娘や妻に体を寄せて抱きしめる。人を愛するということの無償の心をベケットから教えて貰ったシーンだ。
この映画の中で一番感動的なシークエスであろう。

後半は裁判が中心となる。陪審員の殆どはゲイの存在は反社会的なもの、と思っている人が多かったろう。
之に対しジョーは、ベケットを囲む様々な人、最後にはベケット本人にも証人として聞き、私達が今、考えなくては
ならないことはなにか、兄弟愛を市の名前の由来とするフィラデルフィアにあって、憲法でも保証されている
性的指向の差別の不当を静かに穏やかに訴える。そして、弁護士事務所がエイズで解雇できないため、ベケットが
裁判所に出さなくてはならない訴状を隠し、彼の働きの悪さを理由に解雇した事実を明らかにしていく。

封切られた当時と受け止め方はだいぶ異なるのだろうけど、当時、この映画を作ったプロデュースサイドと
配給した会社の心意気を買いたい。トムはその期待に十分応えた。ジョナサン・デミの心細かい演出が暖かく
勇気を持って心に響く。しかし、ベケット(独身だが)の家族全員がゲイでエイズになったベケットに対し
理解がありすぎるのは観てて悪い気はしないが、あまりにも平板。それとパートナーのバンデラスの交流も
描き方が難しかったのだろうが、こちらも平板で、惜しかったと感じた。「差別」と「偏見」を映像化する
のは典型を離れて描くのは難しいと思うけど。
弁護士事務所の老パートナーを始め、弁護士事務所側の女性弁護士メアリー・スティーンバージェンを始めと
する脇を固めるのキャストも魅力的であった。歌はもちろん素晴らしい。

HIVが完治する病気になったとしても、本作は勇気と愛情の物語としてエヴァーグリーンなポジションを得た
といえるだろう。
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<ストーリー:最後まで書かれています>
フィラデルフィアの一流法律会社に務めるアンドリュー・ベケット(トム・ハンクス)は、ある日突然エイズと
宣告され、ウィラー社長(ジェイソン・ロバーズ)に解雇される。
不当な差別に怒ったベケットは、損害賠償と地位の保全を求めて訴訟を決意。だが、次々と弁護を断わられた
彼は、以前敵同士として渡り合ったやり手の弁護士ジョー・ミラー(デンゼル・ワシントン)を訪ねる。
ミラーはエイズに対して、抜きがたい恐怖を感じていた。しかし、世間の冷たい視線に対しても毅然と対処し、
熱心に資料を漁るべケットの姿に、ミラーの心は動かされる。ミラーは弁護を引き受け、母のサラ(ジョアン・
ウッドワード)をはじめ、ベケットの肉親たちは彼に熱い支援を約束する。

解雇から7カ月後、〈自由と兄弟愛の街〉フィラデルフィアで注目の裁判が開廷した。ミラーは解雇が明らかな
法律違反だと主張したが、対する会社側の主任弁護士ベリンダ(メアリー・スティーンバージェン)は、彼の
弁護士としての不適格性を激しく突く。予断を許さぬ裁断の行方と並行して、ベケットの症状は次第に悪化して
いく。裁判を優先させて本格的治療を先に延ばそうとする彼に、恋人でライフパートナーのミゲール(アントニオ・
バンデラス)は苛立つ。ベケットは恋人のため、自分のためにパーティを開く。遂にベケットは裁判中に倒れ、
病院に運ばれた。ミラーは原告側の勝訴の報を、ベッドの上のベケットに告げる。
数日後、大勢の人々に見守られながらベケットは静かに息を引き取り、ミラーはかけがいのない友の死を実感した。
(Movie Walker)

<IMDb=★7.7>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:78% Audience Score:89% >




by jazzyoba0083 | 2018-04-11 23:20 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)