私はダニエル・ブレイク I,Daniel Blake

●「私はダニエル・ブレイク I,Daniel Blake」
2016 イギリス・フランス・ベルギー Sixteen Films,Why Not Productions,Wild Bunch,and more 100min.
監督:ケン・ローチ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン他
e0040938_15475112.jpg

<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
本作は2016年のカンヌ国際映画祭・パルム・ドール受賞作。イギリスの社会派監督ケン・ローチが二度目の同賞を
獲得したものだ。そして、今年のパルム・ドールが是枝裕和監督の「万引き家族」。なぜ二作を並列したか、というと
同じような内容を言わんとしているのだな、と感じたからだ。カンヌはこういう作風が好きなんだろう。以前感想を
書いた「たかが世界の終わり」が、本作と同年同時にパルム・ドールを獲っているから、極めて内省的だったり、社会を
告発するドラマとしての作りの良さなど評価軸になっているな、と思った次第だ。

「万引き家族」が極めて日本的な仕掛け(直接的告発をしない)で、社会が内在する「不寛容」や「機能不全」を指摘
していたのに比べ、本作「私はダニエル・ブレイク」は、ど直球で、イギリス社会のある側面を告発する。
「万引き家族」と似ていたな、と思われたのは、最後のシークエンスで問題点の明快な提示がなされるという手法。

是枝監督は「万引き家族」において、現代日本の『「地域」「企業」「家族」からこぼれ落ち、もしくは排除され
不可視の状態になっている人たち』の有様を突きつけることにより、観ている人に問題点を投げかける。
ケン・ローチの本作とアプローチは違えど、主張は通底している。是枝監督の『(前略)社会は排他的になり、
多様性を失う。犯罪は社会の貧困が生むという建前が後退し、自己責任という本音が世界を覆う』という文書に
触れるにつけ、その考えは確証へと変る。
2つの映画の根っこにあるものは「怒り」であり、ほとんど乱暴なくらいのエンディングはハッピーエンドではなく
鑑賞後の心には「重く」「切なく」「やりきれない」「怒り」が渦巻くのも共通だ。ただ、描き方がローチ監督の
本作の方が直截的で、是枝監督の作品は間接的、といえるだろう。

ダニエル・ブレイクはパソコンが使えない。しかし手当の申請はPCからしかできない。苦労しながらPCを学び
なんとかオンライン申請しようと苦闘するのだが、そのさまは、「自己責任」という便利な言葉で、社会的弱者を
疎外する現代社会の極めて深刻な問題のメタファーに他ならない。

本作では、イギリスの北にあるニューカッスルという街が舞台となり、心臓病を患い医師から就業を禁止されている
その道40年の大工であるダニエル・ブレイクが、職安で職につけない間の手当を、小役人の前例主義、ことなかれ
主義の前にたらい回しにあうさまを中心に、警察も含め、公権力という匿名性に守られ、結局税金で食っている役人
たち公僕が、公僕たる役目をなしてない実情を活写していく。
ダニエル・ブレイク本人の苦労と並走するように、彼の友人となるロンドンの施設から追いやられて来た幼い子供
二人を抱えたシングルマザー、ケイティの周辺も描くことにより、100分という決して長くない映画の中に、一般
市民が持つであろう社会の「理不尽」「融通・温情の無さ」「自分事と出来ない役人の冷たさ」を重層的に描いていく。

ケイティ一家とダニエルが「フードバンク」という貧しい人に食料や日用雑貨を提供する施設で、子どもに食事をさせる
ことを何日も優先してきたケイティが思わず棚の缶詰を開けて口に入れるというシーンが有る。ここはこの映画の中でも
極めて重いシーンだ。フードバンクのボランティアの親切な態度と役人らの冷徹さが自ずと浮かび上がらざるを得ない。

上記は観た人殆どが思うだろうが、イギリスのある町だけの話だけではなく、現在の日本でも、世界中で蔓延している
「不寛容」の実態だろう。本作にはいい人もたくさん出てくる。他人を心配する人も出てくる。だが、そうした個人の
善良さに寄りかかって、対応する福祉関係の税金を削りつづけることは許される社会ではないはずだ。
日本の役人にすべからく観ていただきたい作品だ。

本作のエンディングで亡くなってしまうダニエルの葬儀でケイティが、手当の不服申立のための書いた文章を読み上げる。

「私は依頼人でも、顧客でもユーザーでもない。怠け者でも たかり屋でも 物乞いでもない。国民保険番号でもなく、
エラー音でもない。きちんと税金を払ってきた。それを誇りに思っている。地位の高い者には媚びないが、隣人には手を
貸す。施しは要らない。私はダニエル・ブレイク。人間だ 犬ではない。当たり前の権利を要求する。敬意ある態度と
いうものを。私はダニエル・ブレイク 一人の市民だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

さあ、これをどう受け止めるのか。
一旦引退を決意したローチ監督が、復帰してまで作らなければならなかった映画の重みが、ラストのダニエルの文章に
ある。

e0040938_15493854.jpg
<ストーリー>
社会派の名匠ケン・ローチ監督が、格差と分断が進む世の中で切り捨てられようとしている社会的弱者の心の叫びを
代弁し、カンヌ国際映画祭で「麦の穂をゆらす風」に続く2度目のパルム・ドールを受賞した感動のヒューマン・
ドラマ。実直に生きてきた大工職人が、病気をきっかけに理不尽な官僚的システムの犠牲となり、経済的・精神的に
追い詰められ、尊厳さえも奪われようとしていた時、同じように苦境に陥っていたシングルマザーとその子ども
たちと出会い、互いに助け合う中で次第に絆が芽生え、かすかな希望を取り戻していく姿を力強い筆致で描き出す。
主演はイギリスの人気コメディアンで、本作が初の映画出演となるデイヴ・ジョーンズ。

 イギリス北東部ニューカッスル。59歳のダニエル・ブレイクは、長年大工として働き、妻に先立たれた後も、
一人できちんとした生活を送り、真っ当な人生を歩んでいた。ところがある日、心臓病を患い、医者から仕事を
止められる。仕方なく国の援助を受けるべく手続きをしようとすると、頑迷なお役所仕事に次々と阻まれ、ひたすら
右往左往するハメに。すっかり途方に暮れてしまうダニエルだったが、そんな時、助けを求める若い女性に対する
職員の心ない対応を目の当たりにして、ついに彼の堪忍袋の緒が切れる。彼女は、幼い2人の子どもを抱えた
シングルマザーのケイティ。これをきっかけに、ケイティ親子との思いがけない交流が始まるダニエルだったが…。
(allcimena)

<IMDb=7.9>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:93% Audience Score:85% >



トラックバックURL : https://jazzyoba.exblog.jp/tb/27330309
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
by jazzyoba0083 | 2018-06-13 23:30 | 洋画=ら~わ行 | Trackback | Comments(0)