汚れたミルク/あるセールスマンの告発 Tigers

●「汚れたミルク/あるセールスマンの告発 Tigers」
2014 インド・イギリス・フランス Cinemorphic,Sikhya Entertainment,Asap Films.94min.
監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、ハリド・アブダラ他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆+α>
<感想>
まず、この映画の中に「ネスレ」という企業名が出てくる。誰でも知る世界一の食品企業である。
よくこの名前を出したな、と感心した。この映画、地上波では絶対に放送されないだろう。

本作で描かれている事件は実際に起きたもので、「スノーデン」と同様に告発者とそれを報道しようと
するメディアとの掛け合いで進行するのだが、その中で映画化を担当するプロデューサーから
「実名はまずいだろう。仮名で行こう」というセリフを言わしている。その後、本作の中では
ネスレの名前は出てこない。出てこないが故にこのひとことが強烈に記憶に残る効果を果たしている。

さらに問題をややこしくしているのは、粉ミルクに瑕疵があって乳幼児に危害が加えられたわけ
ではないことだ。欧米の一流メーカーの粉ミルクは母乳より良いに違いないという教育の不足(そのため
多くの母親の母乳が出なくなり、粉ミルクばかり飲むので免疫が弱い)と、高価な粉ミルクを無理
して買うため、水で薄めて与えるので栄養失調になり、かつパキスタンの劣悪な上水道事情から
汚い水で薄めるため感染症となり、更に免疫が低下している赤ちゃんはあっけなく死んでしまう、
という構図の事件だったからだ。ネスレが罪を認めないのは当たり前のような気もしてしまう。が、
1960年70年の東南アジアはどこも似たり寄ったりで、贈収賄を罪とも思わぬ風潮の中で、巨大企業が
金にものを言わせて医師や病院を囲い込み、母親教育も、水道事情も考えず、売らんかな、一辺倒で
あったことは、ネスレだけにとどまらず、いや今だって、金儲けのためには売ったものの結果に責任を
持たない企業は多いのではないか。そういう風潮をタノヴィッチは告発しているのだ。
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パキスタン。国産の薬を医師や薬局に売り込む営業マン、アヤンは、欧米製の薬を高価なのに
有難がる風潮の中、苦戦していた。結婚することになり家族に背中を押されたこともあり、
ライバルだった世界最大の多国籍企業の営業マンの採用試験を受けることになる。もともと
腕は良い営業マンだった上、試験のときのハッタリが効いて採用となる。

彼の仕事は、医師に袖の下を渡し、看護師らにチョコレートなどの贈り物をし、自分の会社の
製品(この場合主に産科に於ける粉ミルク)を購入してもらうことだった。あざといやり方では
あったがパキスタンでは贈収賄は当たり前の風土で、貰う方も贈る方も大した罪悪感を感じて
いない。やりてのアヤンはたちまちトップ営業となり、会社からバイクを与えられたり、
家を新築したりと羽振りが良くなった。

問題はここからだ。映画は、「アヤンが何かを告発する映画」を作ろうとするため、遠いところに
いるアヤンとテレビ電話で結び、プロデューサーやディレクターらが映画化が可能かどうか議論して
いるところから始まる。それが何か、アヤンが何をしていたのかが、さかのぼって描かれていくと
いう構造になっている。

カラチに研修に行って返ってきた医師から、アヤンの会社が販売している粉ミルクを飲む乳幼児が
母乳より欧米製の粉ミルクのほうが子供のためによいだろうと盲信する母親が、貧乏のために
水で薄めて使っており、その水が汚いので、赤ちゃんが下痢を起こして次々と死んでいるという
事実を突きつけてきた。

アヤンは自分が売っていた粉ミルクのために多くの赤ちゃんが死亡している事実に愕然とし、毅然と
会社を辞め、人権派NGOの力を借りて、事件を告発しはじめた。WHOに手紙を書いたことからアヤンと
付き合いのあった医師たちはたちまち指弾され、アヤンはパキスタン中の医師と病院を敵に回して
しまったのだ。結婚して子どもも大きくなったアヤンだったが、妻は夫の信念をあくまで支持していた。

プロデューサーらはドイツのテレビ局に話を売り込み、放送時間の確保に成功、アヤンはドイツに行き、
テレビ出演することに。そしてパキスタンではアヤンとその家族の様子、病院の様子が取材された。
ドイツでは粉ミルク企業の役員がスタジオでインタビューされ、自分たちに責任は負えない、と席を
立ってしまう光景が収録された。またNGOが出版した冊子からスキャンダルに火が付いた。事態は
いい方向に行くと思われた。しかし、アヤンが軍の病院長のところに軟禁状態であったとき、たまたま
粉ミルク企業の元上司との電話で、カネで解決する方向の事を喋ってしまったため、それがドイツの
テレビ局に知れてしまい、放送は中止となってしまう。(喋ってしまったことは企業側が誘導した
罠のような感じがした。アヤンもそう思っている)アヤンはカナダに逃げる。家族とは7年も会えて
ないし、両親の最期にも立ち会えなかった。アヤンの告発は結局空回りになってしまったのだ。

アヤンはカナダでタクシー運転手をして暮らしている。2007年には子どもや妻に会えている。
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映画の構造は「スノーデン」そのままである。結局巨大な権力や企業は、ぬくぬくと悪しき慣行を止めない。
そして社会にはそれに目を瞑る大勢がある。「物言えば唇寒し秋の風」だ。そうした大勢に対し、敢えて
告発の映画を作った製作者と監督と、出演者に拍手を送りたい。誰かが声を挙げなければいけないからだ。

<IMDb=★7.0>
<Rotten Tomatoes=No data>




by jazzyoba0083 | 2018-07-13 22:50 | 洋画=や行 | Trackback | Comments(0)