静かなる叫び Polytechnique

●「静かなる叫び Polytechnique」
2009 カナダ Remstar Media Partners  77min.
監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:マキシム・ゴーデット、セバスティアン・ユベルドー、カリーヌ・ヴァッナス、エヴリーヌ・ブロシュ他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆+α>
<感想>
WOWOWでヴィルヌーヴ監督の初期の作品を何本か放映してくれたので、先日の「渦」に続いて鑑賞。
「渦」から9年が経過している。描く感性は「渦」ほど分かりにくくないが、さりとて明快に割り切れる分かり
やすさがあるかといえば、やはり「具象性」より「觀念性」が際立つ作品となっている。

本作のベースになっているのは1989年にモントリオールの理系大学で実際に起きた乱射事件。この不条理
極まりない事件をヴィルヌーヴの感性で切って取るとこうなるのか、という感じだ。犯人はひたすら女性
=フェミニストに対し、ネジが外れた考えを持っていて、大学に乗り込んで(理工系の大学の女子大生と
いうのに意味がある)銃を乱射、14名の女子学生を射殺してのち、自らの頭を撃ち抜いて自殺する。
自分も理系の学生で、かなり頭はいいようだ。だが、彼いわく7年前に、彼を否定するような女性からの
何かがあったようだ。それ以来、フェミニストを抹殺することしか念頭になくなった狂気にとりつかれた
男だ。

勝手な思想で不条理な死に見舞われた若い命に胸が痛むのだが、犯人がなぜフェミニストを唾棄するように
なったのか、その背景は描かれないが、どうやら映画の端々から、彼の母性コンプレックスのようなもの、
成長過程において母親との「何か」が、彼のネジを何本か外してしまったように見えた。
その最たる象徴は、自殺した男の頭から流れ出た血と、隣で撃ち殺されている女学生から流れた血が合流する
シーンだ。これは、この映画全体の最も大事なメタファーとなる部分であろう。

それと、本作では時制の移動のさせ方が上手い。一度見た(経験した)恐怖は、遡って再現されると倍加する
のだ。それと、女子学生を助けようとして助けられず、自責の念に囚われすぎた一人の男子学生は、実家に
戻り母の手料理を味わった後、空き地で排ガスをクルマに引き込んで自殺する。彼が直前に学校でみていた
ピカソの「ゲルニカ」のレプリカ、そして血まみれの姿で乗った地下鉄で、映画を観ている人に向ける目線。
そのあたりのシーンの切り替えの唐突さも、気に触る人は気に触るだろうが、私にはスパッとしていて見事だな、
と思えた。彼はコピー機のところで殺された女子学生が好きだったのだろうか。

そして、さらにこの短い映画の時間の中に、監督は、この混乱の中から助かり、希望通り航空会社の設計担当と
なった女性のその後も描く。当然大きな心の傷や自責の念(なぜ自分が助かってしまったのか、というような
いわばPTSDの一種)に駆られながらも、結婚して子どもが出来る。しかし子どもができたことが怖い。
どこかへつながる光の帯をラストカットとして映画は終わる。

ヴィルヌーブは事件を題材としているが、この映画に登場する被害に遭う側の学生は創作として作り上げ、
不条理の裏側にある主に一人の女と一人の男の、事件に対する思いを描いた。女性は大怪我を負いながらも
怖さを抱えながら生き抜く決心をし、男は、自責の念に耐えかねて自らの生命を断つ。犯人は勝手に自殺する。
犯人に唾棄された女性が希望を繋ぎ、犯人が男こそ、と思っていた男子学生は自殺する。人生の不条理の小さい
縮図がそこにも見えたような気がした。
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<ストーリー>
1989年12月6日、モントリオール。理工科大学に通い、就職活動中の女子学生ヴァレリー(カリーヌ・
ヴァナッス)とその友人ジャン=フランソワ(セバスティアン・ユベルドー)が、いつも通りの生活を
送っていたその日。平穏な日常が突然、恐怖に染まる。ライフル銃を手にした男子学生の1人が、女子
学生目がけて次々と発砲し始めたのだ。容赦ない銃撃に逃げ惑う学生たち。
犯人は14人もの女子学生を殺害した挙句、自殺を図る。重傷を負いながらも生き残ったヴァレリーと、
負傷した女子学生を救ったジャン=フランソワ。心に深い傷を負った2人は、その後も続く非日常の中で
もがき苦しみ、戦い続けるが……。(Movie Walker)

<IMDb=★7.3>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:86% Audience Score:75%>





by jazzyoba0083 | 2018-07-21 17:35 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)