かくも長き不在 Une Aussi Longue Absence

●「かくも長き不在 Une Aussi Longue Absence」
1960 フランス Procinex,Societé Cinématographique Lyre,Galatea Film.98min.
監督:アンリ・コルピ
出演:アリダ・ヴァリ、ジョルジュ・ウィルソン、ジャック・アルダン、シャルル・ヴラベェット他
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<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
ずっと観たいと思いながら作品に触れる機会がなかったところ、WOWOWで放映してくれたので鑑賞。
欧州大戦が終わって16年。製作された年の頃の話であが、まだまだ戦争の傷跡を引きずって市民は生活して
いた。街の人のたまり場となっているカフェの女主人テレーズ。映画の前半では彼女の素性は明らかに
されない。やがて店の前をオペラ「セビリアの理髪師」の一節を口ずさむ男が行き来するようになる。
みなりは卑しく、今で言うホームレスのような格好だ。帽子を目深に被り、表情は分からない。

やがて彼女は、その男が、ひょっとしたら16年前に二人で暮らしていた田舎でゲシュタポに連れて行かれた
夫なのではないか、と思い始める。口ずさんでいた歌は夫がよく歌っていた歌だし、背格好も顔つきも
忘れられるものではない。ある日、彼女は男の後を付けていき、あばら家で暮らす男とついに対面する。
しかし、その表情にはなんの変化も起きなかった。記憶が無いのだ。

彼女や家族、街の人も見守る中、夫アルベールを店に入れ、いろいろと話しを聞くが、どうやら自分が
誰か、周りにいる人が誰かの記憶が無くなっっている。彼いわく医師も戻ることはないだろうと言って
いるという。手料理を振る舞い、一緒に食事をし、ダンスを踊る・・・。テレーズの必至の努力の甲斐なく
男の記憶は戻らない。

観ている方は、何かのキッカケで記憶が戻るんじゃないかと期待しつつ物語からいっときも目を離せない。
テレーズの夫を思う気持ちが辛く辛く胸に迫る。そして見つける男の後頭部の大きな傷跡。ゲシュタポに
よる拷問の傷跡に違いない。テレーズの心中はどんなものであっただろうか、私たちの切なさは、
テレーズの必死さに比例して、いや勝ってくる。この辺りのシーンは息するのも辛いくらいだ。

ラストシークエンス、河原の小屋に引き上げる男に向かって、街のみんなが「アルベール!」「アルベール・
ラングロワ!」とその背中に声を掛ける。男は一瞬、ホールドアップのように両手を挙げた。次の瞬間、
前から走ってきたトラックにぶつかっていった・・・。

警官はテレーズに、男は「大丈夫だったよ。またどこかへ行ったよ」と説明する。
大丈夫なはずはないのだ。テレーズは「冬を待ちましょう。寒くなればきっと戻ってくるわ」と独り言つ。
そこにはある種の達観が見える。
このシークエンスは見事だ。男が名前を連呼されホールドアップするのは記憶喪失していても、戦争で受けた
心の傷は忘れられないものになっているという戦慄すべきシーンであった。それに対し、これからまた夫が
いない暮らしが(永遠に)続くテレーズにとって、(冬の到来」とは何を指すのだろうか。戦争が生み出した
ある夫婦の悲劇はまだ終わらないのだ。 トラックにぶつかった拍子にアルベールの記憶が戻るのじゃないか、
と思った私には作者がこの映画を通して伝えたかった戦争の悲劇を分かっていなかったということだ。

物語の構成もテンポよくまた計算されたものとなっている。パリの郊外のカフェ、やって来たバカンスシーズン、
人々は浮かれて地中海を目指す、残されたテレーズ。現れる男、正体を探ろうとする、接触してカフェにつれて
来てなんとか記憶を回復させようとする。しかし絶望・・・。94分のモノクロの映画全編に渡る緊張感と悲劇性は
その年のカンヌのパルム・ドールを獲得するのに相応しい。
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<ストーリー:ラストまで書かれています>
テレーズ(アリダ・ヴァリ)は、セーヌの河岸に近い、“古い教会のカフェ”の女主人。貧しい人々の憩の場である。
しっかりものと評判高かったが、女盛りを独り身で過したのだ。運転手のピエール(ジャック・アルダン)の親切に
ほだされるのも無理からぬことだった。
彼女が、朝と夕方、店の前を通る浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)の姿に目をとめたのは、そんなある日だった。
十六年前、ゲシュタポに捕えられたまま、消息を絶った夫アルベールに似ているのだ。彼女は不安の混った期待で
その男の通るのを待つようになった。

ある暮れ方、手伝の娘に男を導き入れさせ、物陰で男の言葉に耳を傾けた。男は記憶を喪失したのだという。彼女は
男の後をどこまでも尾けて行った。セーヌの河岸のささやかな小屋。その夜、そこから離れなかった。
翌朝、男と初めて言葉を交した。彼女はもしや……という気持が、もう動かせない確信に変っていった。何日か後、
アルベールの叔母と甥を故郷から呼び、記憶を呼び戻すような環境を作ってその結果に期待したが、彼の表情に変化は
認められなかった。叔母は否定的だったが、彼女は信じて疑わなくなった。

ある夜、男を招いて二人だけの晩さんをした。ダンスをした。それは幸福な記憶に誘う。彼女の眼にはいつしか涙が
光っていた。夫の記憶を取り戻す術はないのか。背を向けて立ち去ろうとする男に、思わず叫んだ。「アルベール!」
聞えぬげに歩み去る男に、それまでの一部始終を伺っていた近所の人たちも、口々に呼びかけた。瞬間、男は立ち止った。
記憶が甦ったのか?一瞬、彼は脱兎の如く逃げ出した。その行く手にトラックが立ちふさがった。あっという間の
出来事であった。
目撃者のひとり、ピエールのなぐさめの言葉に、テレーズは一人言のように呟いた。「寒くなったら戻ってくるかも
しれない。冬を待つんだわ」(Movie Walker)

<IMDb=★7.1>
<Rotten Tomatoes=No Data>



by jazzyoba0083 | 2018-07-23 23:15 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)