ウィンド・リバー Wind River

●「ウィンド・リバー Wind River」
2017 アメリカ Acacia Filmed Entertainment. 107min.
監督・脚本:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル、グレアム・グリーン、ケルシー・アスビル他
ウィンド・リバー Wind River_e0040938_17033090.jpg
<評価:★★★★★★★★☆☆+α>
<感想>
映画好きの間ですこぶる評判がいいので、昨日都心の「ネットで予約が取れない」映画館に行ったら、なんと
初回の上映は満員札止め。諦めて本日、クルマで40分以上も離れたシネコンに行ってきた。入ってましたね。

ジェレミー・レナー、このところの作品では「ハート・ロッカー」に次ぐいい演技。しかし、これ本国でも
極めて少ない映画館での上映でスタートし、あっという間にスマッシュヒットになったという。日本でも
例えば愛知県で言えば、県内で4スクリーンくらいでしか上映していないから、観たくても遠方まで出かけ
なくてはならないので大変。観たい人はたくさんいるだろうに。

で、どこか良かったか。アメリカのシリアスな現実を突きつけられた衝撃、ということかな。とにかくトランプに
見せたい。(トランプが直接の原因ではないけど) そして思ったのはこの映画、本国での捉えられ方とその他の
国では相当の開きがあるだろうな、ということだ。黒人問題もそうだけど、自分の身の回りの事件として肌感覚で
理解できたら、もう少し、映画の理解も感想や感動も違ったものになっただろう。まあ、これは根源的なことなので
嘆いてもしょうが無いと思う。故に観終わった後、アメリカ先住民が置かれてきた歴史を勉強し、感想を自分の
手で肉厚にする作業が必要だろう。

まず、タイトルの「ウィンド・リバー」という名前。これはアメリカは北西部、ワイオミング州にある先住民
居留地の名称。(山の上なので冬は非常に低温になる)主人公のコリー・ランバートは連邦職員として
合衆国魚類野生動物局のハンターを努めている。
増え過ぎたり獣害をもたらすオオカミやコヨーテやピューマなどを公的に射殺する権利を持っている。
奥さんは先住民。子供が二人いた。今は離婚している。その離婚の理由も悲しい。

コリーがパトロールの雪の山で、若い女性の遺体を発見する。先住民の娘だ。裸足。額に大きなキズがある。
コリーは警察ではないので、まず居留地警察(先住民)署長に連絡する。検視の結果、どうやら死因は極寒の
空気を吸って肺胞から出血し、それで窒息したものということで、レイプはされていたが、殺人でないと
いうことに。居留地は連邦管理下にあるので、殺人事件が起きると連邦捜査局(FBI)が乗り出す。
乗り出すものの殺人事件ではないので、後述するジェーン捜査官は上司に適当なことを報告し(これが
とやかく言われないところも居留地での事件の実態を物語っていると思うのだが)、捜査を続ける。
一方でレイプは州法により罰せられる犯罪なので、連邦監督下の居留地で起きた事件には州警察は手を
出せない。捜査がすくんでしまっている真空地帯のようなエリアがアメリカにはあるのだという事実。
(これでは警察官の数の少なさと相俟って、殺人があって行方不明があっても遺体も出てこないという
事実はよく分かる)
シェリダン監督は2012年にニューヨーク・タイムズに、この「ウィンド・リバー居留地」で異常にレイプや
女性の行方不明事件が多発するという記事を読んで、興味を持ち、自分で調べて脚本にしたという。

因みにこのウィンド・リバー居留地は九州ほどの広さがあるのに、警察官は6人しかいないという。

そこでやって来たのが、極寒の地にベガスの支局からレンタカーでたった一人でやってきた薄着の女性捜査官
ジェーン・バナー(オルセン)だった。殺された娘はどこからか、かなりの距離を歩いて逃げてきて、冷気を
吸いすぎて死亡したが、直接の死因は殺人でないにしても、死に至る原因を作ったことを考えると殺人と
同義であった。遺体はコリーの娘でやはり雪山で無残な遺体で発見されたエミリーの親友のナタリーだった。
だからコリーは遺体をみてすぐに身元は分かった。しかし、殺人事件でないとなると、FBIの所管では
無くなってしまう。そこでジェーンは支局にはいい加減な報告をしておいて、コリーの力を借りて二人で
ナタリーを殺したのは誰かの捜査を始めた・・・。

捜査の過程で犯人は割れ、どうやらコリーの娘を毒牙の掛けたのも同一グループらしいところまでいく。
最期の詰めでジェーンは撃たれて重症を負う。

私たちは、この捜査の過程で浮かび上がってくる、先住民居留地の闇を思い知ることになる。150年以上も
前から、このような荒野に押し込められ、開拓民の犠牲になってきた先住民たちの現状は、アメリカの大きな
闇の一部であり、白人たちの一部には、未だに先住民を見下している風土が残っている。それが故のこの映画で
描かれているレイプ殺人事件だ。 
本作の最大の山場である犯人グループの巣窟ではないかという工事現場の仮設住宅での銃撃戦は、その動機も
描き方も近年の映画で観たことがない衝撃的なものであった。(ある意味カタルシスでもあるのだが) 
町山智浩氏が「この映画は西部劇」と言った意味合いがこの辺りにあるのだろう。全員武装し、相手が警察で
あろうが、FBIであろうが、身を護る為なら発砲を厭わない。この銃撃戦の中でハンター、コリーのライフルの
威力が炸裂するわけだが、これは、殺された娘やナタリーの復讐の銃弾のような気がしてならなかった。 
こうした無法地帯に先住民は暮らさざるを得ない状況が続いているわけだ。

シェリダン監督はインタビューでこう語る「世の中には語られるべき物語というのがある。映画は 皆が知らない
世界を鏡に映し出しそこで何が起きてるのか人々に考えさせることができる。うまくいけば変化も起こせるはず。
それもエンタメを通じてね」(本作の公式Twitterより転載)

事件は一応解決するが、アメリカの先住民の問題はなんら解決していない。最期に字幕で解説されるが、居留地に
おいては犯罪率や失業率も高い、10代の自殺率が高い、などなど。映画の冒頭で牧羊を狙うオオカミを射殺する
コリーの姿があるが、こんな痩せた土地では大掛かりな農作業もままならず、牧羊にたよるくらいしかない状況が
見えていた。アメリカはアメリカンドリームの国ではあるが、その深いところには黒人問題や移民問題、帰還兵士の
PDSDの問題そしてこの先住民問題など、まだまだ深い闇は到るところにある。それをこうして映画にしてみせる、
それがまた上質な映画となり、みんなが見る、知る、こうした風土もある。我が国ではどうだろう?

配役のジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン(アベンジャーズのお仲間だけど)、いいキャスティングだと
思った。映画を覆う雪とモノトーンな色調。手持ちのカメラ。冷たさが伝わってくるような画作りも良かったと
思う。

※本ブログを書くにあたり一部TBSラジオ「たまむずび」内にて町山智浩氏が本作を解説されいる箇所を参考・引用
させて頂いています。
ウィンド・リバー Wind River_e0040938_17035972.jpg
<ストーリー>
第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞に輝いた、新鋭テイラー・シェリダン監督によるクライム・
サスペンス。アメリカ中西部・ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地で起きた少女の殺人事件を追う
新米女性捜査官の目を通し、現代のアメリカに渦巻く闇をも浮かび上がらせる。
捜査に協力する白人のハンターをジェレミー・レナーが演じる。

厳寒の大自然に囲まれた、雪深いアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・
リバー”で、突如女性の死体が発見される。FBIから単身派遣された新人捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・
オルセン)は、遺体の第一発見者で地元のベテランハンターであるコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)に
協力を求めるが、不安定な気候と慣れない雪山の厳しい条件により捜査は難航する。隔離されたこの地では多くが
未解決事件となる現状を思い知るも、不審な死の糸口を掴んだコリーと共に謎を追うが、思いもよらなかった
結末が待ち受けていた。

<IMDb=★7.8>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:87% Audience Score:90% >




by jazzyoba0083 | 2018-07-31 12:10 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)