ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 Anthropoid

●「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 Anthropoid」
2016 チェコ・イギリス・フランス LD Entertainment,22h22 and more. 120min.
監督・(共同)製作・脚本:ショーン・エリス
出演:キリアン・マーフィー、ジェイミー・ドーナン、シャルロット・ル・ボン、アンナ・ガイスレロヴァー他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
WOWOWの終戦記念企画、2本めの鑑賞。この事件は割と有名でご存知のかたも多いと思うし、プラハに
行いった折、最期の闘いになった教会に立ち寄った人もおられるのでは無いか。映画化も既に本作を入れて4回目と
なる。折に触れて、こうした歴史上で忘れてはいけない事件を映画化することはとても意味があることだと思う。
日本でも「日本のいちばん長い日」などが何度か作られるのも私は意義深いと思う。ただ、往年の帝国軍のカッコ
良さだけが浮き上がって来てしまうようなものは排除しなくてはならないが。

邦題に使われているハイドリヒとは、ドイツがチェコスロバキアを、チェコとスロバキアに分割し、ナチス
ドイツがチェコ(ベーメン・メーレン保護領)を管轄させたドイツ軍の最高司令官でナチスのナンバースリーとも
いわれ、その容赦ない弾圧の手法から「金髪の野獣」「絞首刑人」などと云われ市民から恐れられていたラインハルト・
フリードリヒ親衛隊大将のことである。彼はユダヤ人ホロコーストを最先鋭的な考えで指導した人物としても
重要である。

歴史的にはナチスの横暴を許した1938年の英仏独伊のミュンヘン会議(結果的にナチスにチェコの割譲を許して
しまう)の結果とか、チェコにはドイツ系の市民が多かったとか、軍事を支える重要な工業地帯であったこと
などの背景がある。それとフリードリヒはナチスに抵抗するインテリ階級には容赦ない即決裁判と射殺で応じる
一方、労働者階級には労働保険を認めるなど融和策もとってアメとムチを使い分けていた。彼は「市民に愛される
総督」を振る舞うため、移動も単独のオープンカーですることが多く、ヒトラーはこれに対し、しばしば苦情を
伝えたが、ハインリヒは言うことをきかず、結果的にこれが彼の命取りになった。

さて、本題。欧州をヒトラーに蹂躙されてしまった1941年、大英帝国とチェコのロンドン亡命政府は、7人の
若者をチェコスロバキア人を選び、パラシュートで侵入させ、ハイドリヒを暗殺するという「anthropoid」
(類人猿作戦)というコード名の作戦を決行した。最期の二名が夜間、チェコに降下してくるところから本作の
物語は始まる。彼らは、地元の抵抗勢力の協力を得て、プラハに入り仲間と合流、ハインリヒ暗殺の計画を
練り始める。

この作戦は相当無茶苦茶で、暗殺のタイミングややり方、後の自分たちの逃げかたなどは全部7人任せであった。
それとこれは映画の中でも、地元のレジスタンスらが主張するのだが「ハイドリヒ」を殺した後、ナチスが必ず
してくるだろう「予測もつかない報復」のことがあった。まだナチス・ドイツの勢いが衰える前で、その時期に
ナンバー3を暗殺したら、ヒトラーは一体どういう行動にでるのか、その辺りをチャーチルや亡命政府首相は
考えなかったのだろうか。この件に関しては今でも論争があり、映画の中では、これで良かったかどうかに
ついての判断は話題にしていない。

パラシュート部隊はハイドリヒの動きがどのようなものか、どのタイミングでどのような武器で暗殺するのか
地元の協力者たちと情報を収集する。そして、決行の日は来た。クルマの前に立ちはだかった男のマシンガンは
弾が詰まってしまい動かない。敵はハイドリヒと運転手の二人だけだ。仲間が必死で投げた対戦車手榴弾が
ハイドリヒのベンツの下で爆発し、彼は重症を負う。作戦は失敗か、と落胆したものの、数日後、ハイドリヒは
負った傷のため死亡した。そこからは頭に血が登った親衛隊やゲシュタポによる壮絶なスパイ刈りが始まり、
一方で、報復として、2つの村の16歳以上の男が銃殺され、女子供は収容所に送られた。結果的には、
チェコ人5000人から1万人以上が報復のために生命を落としたという。
そしてついに地元の一人が捕まり口を割ってしまう。

最後のクライマックスは、7人のパラシュート部隊の、隠れたプラハの聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂の
地下納骨堂を取り囲んだ700人のドイツ軍との壮絶な銃撃戦だ。袋のネズミの彼らは最後の一発を自決のために
とっておき、たった7人で果敢に戦った。しかし所詮多勢に無勢であった。この作戦部隊のメンバーは青酸カリ
のような毒薬を渡されていて、地元の協力者を含め捕まる前に自害するメンバーも多かった。

こうした映画の中には殺伐さを削ぐために男女のことが入ってくることが多いのだが、本作でもそれがある。
あまりにも凄惨な事件だけに、そんな話でもないとやりきれない。パラシュート部隊に協力した一家の最後
(バイオリン弾きの少年アタの一家)などは、正視出来ないほどの残虐性で、ナチの本性としてもかなりきつい
画面であった。

役者さんは存じ上げない方が多いが全体として引き締まっていたと思うし、ナチスの横暴さと、無鉄砲な
作戦に応じた7人の勇気と胆力はよく理解できた。ナチが酷いことは分かっていたが、そもそもの暗殺作戦が
適切であったかどうか、そして実行計画もけっこうずさんなこの作戦に驚きを禁じ得ないのだった。

銃撃戦のあった教会には今でも花束が絶えず、ドイツ軍の重機関銃による弾痕もそのままにされている。
そして地下の納骨堂は当時の形を残し記念室となっている。
先日のハンガリーのユダヤ人といい、チェコスロバキア(この国は既に存在すらしない)の悲劇といい、
さらに言えば、つい最近までいや今も混乱が続いている旧ユーゴスラビア、クリミア半島など、東欧の
悲劇にまで思いを致した映画だった。
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<ストーリー>
ナチス・ナンバー3と言われたハイドリヒ暗殺の史実を基に映画化。1942年。イギリス政府とチェコ
スロバキア亡命政府は、ユダヤ人大量虐殺の実権を握るハイドリヒ暗殺を計画。ヨゼフ、ヤンら7人の
部隊を、パラシュートによってチェコ領内に送り込むのだが……。

第二次世界大戦下の1942年。ナチスがヨーロッパのほぼ全土に占拠地域を広げていくなか、ヒトラーの
後継者と呼ばれ、その冷酷さから“金髪の野獣”と渾名されたナチス第三の実力者であるラインハルト・
ハイドリヒは、ユダヤ人大量虐殺の実権を握っていた。

イギリス政府とチェコスロバキア亡命政府はハイドリヒ暗殺計画を企て、ヨゼフ(キリアン・マーフィ)、
ヤン(ジェイミー・ドーナン)ら7人の兵士による暗殺部隊を、パラシュートによってチェコ領内に送り込む。
二人はプラハの反ナチス組織や家族と接触、暗殺計画を着々と進め、やがてそのミッションは実行される。
だがハイドリヒ襲撃に憤慨したナチスは、常軌を逸する残虐な報復を始めるのだった……。
(Movie Walker)

<IMDb=★7.2>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:65% Audience Score:70% >



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by jazzyoba0083 | 2018-08-18 23:50 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)