華氏119 Fahrenheit 9/11

●「華氏119 Farenheit 9/11」
2018 アメリカ Dog Eat Dog Films,Midwestern Films,State Run Films.128min.
監督・脚本・製作:マイケル・ムーア

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
トランプ嫌いなマイケル・ムーアがどんな映画を作ったのか、折しも中間選挙の当日、開票速報を
待ちながらシネコンに出かけた。どうやら下院は民主党が過半数を制するようだ。

彼のドキュメンタリー映画はこれまでWOWOWを通して観ていた。今回、トランプという怪物を生み、
全世界がとランピズムに毒されている昨今、やはりムーア監督のドキュメンタリーは観ておく必要が
あると感じたのだ。 あえて中間選挙の直前に封切り、トランプ一派への一撃になれば、と言う魂胆か、
と思ったら、さにあらずだった。

確かに、ムーアはトランプとその手腕に対して非常に批判的だ。だが、一方で、開巻に示されるように、
民主党とその支持者の危機感の薄さを示し、返す刀で、民主党よりのメディアの分析不足をバッサリと
切ってみせた。また共和党の政治に対するオバマ大統領(現役時代)の姿勢も批判、トランプ批判と
いうよりも、アメリカ民主主義の危機を強く訴えている。

「トランプという怪物はいきなり空から降ってきたわけではない。それなりの事情があって登場した
わけだし、その土台を意図せず作ってしまったのは民主党政権」であり、割を食っているのは真面目な
労働者や銃で殺される高校生らな訳だ。ムーア監督はトランプとヒトラーを重ねることを臆さない。
ヒトラーの演説の声をトランプに置き換えて見せるが、さもヒトラーがいいそうなことをトランプは
言っているのが分かる。

こうして、分かりやすい事例を引いて、如何に今のアメリカ民主主義が危機的状況か、を主張している。
もともと移民でなりたち、文化も言語も宗教も異なる「合衆国」であるアメリカは、対立を煽りやすい
国の成り立ちだ。そこに登場したトランプは、敵を作り、それを避難して煽り、徒党を組もうとする。
大衆に分かりやすい対立軸を作り、恐怖を煽る。さらに自分の都合の悪い情報をフェイクニュースと称して
対立するメディアも悪人に仕立て上げ、大衆に攻撃を促す。これは第一次大戦後にドイツに登場した
ヒトラーと同じステップだ。まさに今アメリカは民族が二分どころか複数に分断されようとしている。

一方で政治家は企業から多額の献金を貰い、企業よりの政策を実施し、市民の声を聞かない。
(聞いているふりをしている)あれだけ銃の乱射事件が多発し多くの国民が亡くなっていても
全米ライフル協会から多額の献金を貰っている議員は、口をつぐむ。銃が悪いのではない、それを
扱う人が悪いのだと。トランプは「先生に銃を持たせろ」という論理になるわけだ。そのうち、
生徒にも銃を持たせろと言いかねない。西部劇時代へ逆戻りだ。多くの移民を受け入れ、荒れた土地を
開拓し、隣人を愛せよと教えられ、民主主義を培ってきたアメリカが今、崩壊しようとしている。
映画に登場した専門家たちはみな悲観的だ。自由の女神の礎石に書いてあることを今一度読めと。
そして女神が掲げる松明の炎はいま、消えてしまっていると。

個人的にも、「パリ協定」や「ユネスコ」から脱退し、TPPを潰し、中国やロシアに喧嘩を吹っかけ
「核軍縮」から離脱を宣言し、世界が長い間かけて築いてきた微妙なバランスを一気に突き崩した
トランプは大嫌いだ。だが、一方で、世界制覇を狙う習近平一派と、人権抑圧非民主的なプーチン、
そして日本の安倍晋三、欧州や南米に出現しつつある極右のポピュリストどもを観る時、将来へ
暗澹たる思いを持つのだ。人間は歴史から学ぶことを止めたのか。トランプを登場させたアメリカ人を
アホ扱いすることは簡単だが、ならば独裁国家は置くとして、日本やフランスやブラジルはどうか。
「寛容さ」を失っていく全世界のありように、救いはあるのだろうか。(トランプが自分の任期を
16年に伸ばすという「アドバルーン」を上げる下りはあまりにも安倍に似ていてびっくり)

今回のアメリカの中間選挙でも共和党は強い。今や共和党ではなく、トランプ党であろう。良識を持って
いた共和党の議員たちは辟易として去っていった。まさにナチス党の完成ではないのか。

この映画を見ると、アメリカに対する幻滅度は確実に上がるし、世界の動向に恐怖を抱くだろう。
だが、純粋な若者や女性たちが恐れを知らずに体制に挑む姿も結構長く映され、幻滅にはまだ早いと
感じるだろう。

再び、世界が第二次世界大戦前夜の様相を示している、という警告とさえ受け止められた映画だった。
こういう映画を作る監督の存在は貴重だ。
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<ストーリー>
アポなし突撃取材でアメリカ社会に一石を投じ続けるマイケル・ムーアがトランプ大統領に切り込んだ
ドキュメンタリー。大統領選のさなかにトランプ当選の予測を的中させたムーアがトランプの驚愕の
事実を明らかにし、この暗黒時代をどう抜け出すかを披露する。
第43回トロント国際映画祭ドキュメンタリー部門オープニング作品、第31回東京国際映画祭正式出品作品。

大統領選さなかの2016年7月、マイケル・ムーアは『大統領選でトランプが勝利する5つの理由』という
エッセイを書き、変人扱いを受けながらもその予測を的中させた。
彼がトランプ大統領を取材するうちに、「トランプは‘悪の天才’。感心するほどの狡猾さでトランプを笑って
いる私たちでさえ彼の術中にはめられている」という驚愕の事実が分かってきた。どんなスキャンダルが
起こっても大統領の座から降りなくて済むように、アメリカの国民はもちろん、ジャーナリストやメディア、
憲法や司法システム、さらには他国の政治や国民すら利用して仕組んでいるというのだ。
ムーアはすべてに歯止めをかけようと、本作でトランプ・ファミリーが崩壊必至のネタを大暴露し、
トランプを当選させたアメリカ社会に鋭く切り込みを入れ、この暗黒時代をどう抜け出すかを示す。

<IMDB=★5.7>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:82% Audience Score:69% >
<KINENOTE=76.8点>



by jazzyoba0083 | 2018-11-07 14:10 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)