天才小説家の妻ー40年目の真実ー The Wife

●「天才作家の妻 ー40年目の真実ー  The Wife」
2017 アメリカ Silver Reel 101min.
監督:ビョルン・ルンゲ
出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレーター、マックス・アイアンズ、アニー・スターク他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想:結末まで触れています>
主役のグレン・クローズがゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得し、俄然注目を浴びた本作、それを知って
観たのでいささかのバイアスを排除できないのだが、たしかに、原題の「The Wife」にある通り、ノーベル賞を
獲った夫の影にいた「妻」の心の動きがクローズの体や顔の表情を通して実に良く表現できていたと感じた。
グレン・クローズのワンマンショー(今はジェンダーの問題でこうは言わないのかな)である。というかそれを
味わう作品である。日本では比較的アンダーレイテッドな女優さんだが、オスカーに6回ノミネートされている
実力派であり、舞台出身ということもありトニー賞も3度受賞している女優さんだ。

ストーリーが平易なので、余計にクローズ演ずる妻の想いが画面を通して伝わってくる。映画はスェーデンの
ノーベル賞委員会から文学賞受賞の連絡が夜中にジョーン(クローズ)の夫ジョゼフのところに入るところから
始まる。手を取り合ってベッドの上で飛び跳ねて喜ぶ二人。この屈託の無さがラストの暗転と非常に対照的なのだ。

実はジョーンは才能ある作家の卵であったが、女性作家を蔑視する当時の風潮や、ジョゼフに惚れ込んだこともあり
文学をすて結婚の道を選んだ。しかし、ジョーンの担当教授で妻子ある身であったジョゼフは恋に落ち、ジョーンは
略奪婚のようにジョゼフの妻の座に収まったのだった。
作家であったジョゼフが妻の文才を認めていて、彼女に自分の作品の校正を頼むようになる。しかしそこだけでは
とどまらず、ジョゼフの作家活動にとってジョーンは欠くことができない存在となっていたのだ。

それを嗅ぎ回るのがジョゼフの伝記を書こうとするルポライターのナサニエル(スレイター)だった。彼は二人の
過去を綿密に調べ上げ、ジョゼフがジョーンと結婚したころから文体に変化が出てきたことに気がついていた。
このスレイターの役どころが、長男の存在と相まって映画にテーマを投げかける重要な役割を担っている。
「彼の影で旦那さんの業績づくりに疲れているのではありませんか」というようなことをジョーンに語りかけて
くるのだ。一方作家でもある長男は父にコンプレックスをもっているが、彼の才能を的確に見抜いているのは
ジョーンであったりするのだ。

自分の才能より愛する男性との結婚を選んだが、ジョーンはジョゼフの作品にコミットすることで捨てたはずの
作家としての才能を実現していたのではないか。
ストックホルムでの授賞式、ジョゼフのスピーチを聞いていて、ジョーンの中の何かが切れた。夫にノーベル賞を
「獲らせてあげた」という自負や自分の才能を本来の形で表現できなかった何十年の溜まったものが破裂して
しまったのだ。確かに若き日は担当教授であったジョゼフを心から愛して、文学を捨てることに何も抵抗はなかった
はずなのだが、夫の影で夫の才能のコアたる部分を支えてきた自分への評価がなされないこと、それに対して夫の
自分に対する思いの程度(相当妻に感謝している言葉を並べてはいるのだが)に愛想が尽きてしまったのだった。

「別れてください」これはジョーンが今後自分の人生を自ら切り開く宣言にほかならない。これは天才作家と
その妻というポジションでなくても容易に起きる事態だろう。そのことを思うと戦慄せずにはいられないのだ。
そこに原題が持つ意味があるのだ。

以上のようなジョーンの思いをグレン・クローズが円熟した演技で魅せる。

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<ストーリー>
ノーベル賞授賞式を背景に、人生の晩年に差しかかった夫婦の危機を見つめる心理サスペンス。
世界的な作家ジョゼフと彼の創作を慎ましく支えてきた妻ジョーン。理想的なおしどり夫婦に見えるふたりの関係は、
夫のノーベル文学賞受賞によって静かに壊れ始める。
ジョーンを「危険な情事」のグレン・クローズ、ジョゼフを「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの
ジョナサン・プライス、ジョゼフの経歴に疑惑を持つ記者ナサニエルを「ニンフォマニアック」のクリスチャン・
スレーターが演じる。
監督は、スウェーデンで芝居の演出なども手がけるビョルン・ルンゲ。脚本を「あなたに降る夢」のジェーン・
アンダーソン、音楽を「アイズ・ワイド・シャット」のジョスリン・プークが担当。
原作は「ディス・イズ・マイ・ライフ」のメグ・ウォリッツァー。

アメリカ・コネチカット州。現代文学の巨匠ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)と妻ジョーン
(グレン・クローズ)のもとに、スウェーデンからノーベル文学賞受賞の吉報が届く。友人や教え子らを自宅に
招いたジョゼフは、スピーチで最愛の妻に感謝の言葉を告げる。
満面の笑みを浮かべて寄り添うふたりは、誰の目にも理想的なおしどり夫婦に見えた……。

授賞式に出席するため、ふたりはストックホルムを訪れる。旅に同行した息子デビッド(マックス・アイアンズ)は
駆け出しの作家で、父に対し劣等感を抱いている。そんななか、ひとりホテルのロビーに出たジョーンは、記者
ナサニエル(クリスチャン・スレーター)から声をかけられる。ジョゼフの伝記本を書こうとしている彼は、夫妻の
過去を事細かに調べていた。ふたりが大学で教授と学生という関係で出会い情熱的な恋に落ちたこと。既に妻子が
あったジョゼフをジョーンが奪い取る形で結ばれたこと。作家としては二流だったジョゼフがジョーンとの結婚後に
次々と傑作を送り出してきたこと……。そしてナサニエルは、自信ありげに核心に迫る質問を投げかける。
「“影”として彼の伝説作りをすることに、うんざりしているのでは?」実は若い頃から豊かな文才に恵まれていた
ジョーンだったが、出版界に根づいた女性蔑視の風潮に失望し作家になる夢を諦めた過去があった。
そしてジョゼフとの結婚後、ジョーンは彼の“影”として、自らの才能を捧げ、世界的な作家の成功を支え続けて
きたのだ。そして授賞式当日。複雑な感情をひた隠し、華やかに正装した夫妻は、人生最高の晴れ舞台が待ち受ける
ノーベル賞授賞式の会場へと向かう...。(Movie Walker)

<IMDb=★7.3>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:84% Audience Score:78%>
<KINENOTE=70.0点>(母数少なし)





by jazzyoba0083 | 2019-01-19 14:35 | Trackback | Comments(0)