日日是好日

●「日日是好日」
2018 日本 東京テアトル=ヨアケ配給 製作委員会製作 100分
監督:大森立嗣  原作:森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊)
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、原田真由、山下美月、鶴見辰吾他
日日是好日_e0040938_22210103.png
<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
ホノルルからの帰国便、最期に選んだ作品がこれ。最前から映画好きの後輩に、一度観て感想を聞かせてください、と
言われていた作品だ。どこか小津作品に通底するような観念性を持つ作品で、見る人によっては「だからどうした」と
思えちゃうようなものだろう。描かれる世界は黒木華と多部未華子の日常と通うお茶の先生、樹木希林の物語という
ごくごく小さい宇宙だ。まるで描かれるお茶の世界の投影のようでもあり、四季の移ろいに敏感で、そこに美や文学を
見出し、侘び寂びが好きな日本人向きの感性を持った作品ということもできるだろう。
これ英語の字幕が付いていたけど、西欧人が観てもよく分からないのではないかなあ。

私はお茶の世界は「一期一会」くらいしか知らない門外漢だが、おそらく茶道の世界は人の生を投射したもの、または
暗喩的なもの、小宇宙的なものなのではないか。そこら辺を理解しておかないと、「毎年同じことを繰り返すことが
出来る幸せ」という一種の悟りのような観点に立てないのではないか。ただし、本作はお茶のことを知らない人でも十分に、
いや知らない人のほうが面白く見られるように仕上がっている。

ストーリーとしてはまったく驚くことはない。
大学生だった黒木華がイトコの多部未華子とおばさんである樹木希林のもとにお茶を習いに行くところから始まる。
茶道の習得と四季の移ろいが繰り返され、黒木華が結婚して主婦になるまでの時間を巻物を開くように物語られる。
親が亡くなることもまるで自然の摂理のように作品の中に取り込まれていく。
大きな変化があるわけではない。
黒木華は小さな挫折を味わい、一足先先に行く多部未華子を眩しく思いながら、地道に人生を歩む。お茶の
先生になるのか、と思ったが、そのセンスはないようだ。平凡な結婚をして、毎年正月に先生のところで「初釜」を
祝う。10年近くも同じことを繰り返してきた黒木が「毎年健康で同じことが出来る」とはなんて幸せなことなんだろう、
と悟るのだ。おそらく日本人のほとんどの人が本作の映画の主人公のような人生を歩くのだろう。

黒木華の生き方悟り方を観て、「なるほどね」と思うか「こんな平凡な人生ではいやだ」と思うかは観た人次第。
樹木希林の遺作となった本作だが、いつもの自然体の彼女の演技は演技とも思えないほど作品に溶け込んでいた。
黒木華はこういう立ち位置にはぴったり。多部未華子もまああのおきゃんなイメージがよかったのではないか。

いい映画だとか面白くない、とかの表現の彼方にある作品のような気がする。

<ストーリー>
お茶の魅力に気付き、茶道を習うことで日々成長していくヒロインの姿を描く人間ドラマ。黒木華が20歳でお茶と
出会い、さまざまな体験をするヒロインの10年を演じる。
また、2018年9月に亡くなった樹木希林がヒロインの師匠となるお茶の先生を演じ、味わい深いドラマにエッセンスを
加える。監督は『さよなら渓谷』の大森立嗣。

真面目で理屈っぽい20歳の大学生・典子(黒木華)。おっちょこちょいな自分に嫌気がさす典子は、ある日、母親
(郡山冬果)から「お茶、習ったら」と突然勧められる。意味がわからず困惑する典子だったが、同い年の従姉妹・
美智子(多部未華子)からも誘われ、二人は自宅近くにある茶道教室の先生を訪ねる。

その先生は大きな家にひとりで暮らし、巷で“タダモノじゃない”とうわさの武田のおばさん(樹木希林)だった。
稽古初日。典子と美智子を茶室に通した武田先生は、挨拶もほどほどに稽古を開始。折り紙のような帛紗さばき、
ちり打ちをして棗を『こ』の字で拭き清める。茶碗に手首をくるりと茶筅を通し『の』の字で抜いて、茶巾を使って
『ゆ』の字で茶碗を拭く。お茶を飲み干すときにはズズっと音をたてる。茶室に入る時は左足から、畳一帖を六歩で
歩き七歩目で次の畳へ……。意味もわからない所作に戸惑うふたり。

毎週土曜、そんなふたりの稽古は続いた。鎌倉の海岸。大学卒業を間近に控えたふたりは、お互いの卒業後を
語り合う。美智子は貿易商社に就職。だが典子は志望の出版社に落ちて就職を諦めていた。就職後、美智子は
お茶の稽古をやめてしまったが、出版社でアルバイトをしながらお茶に通う典子には後輩もできた。

お茶を始めて2年が過ぎる頃、梅雨どきと秋では雨の音が違うことに気付く典子。冬になり、お湯の“とろとろ”と
いう音と、“きらきら”と流れる水音の違いがわかるようになった。がんじがらめの決まりごとに守られた茶道だが、
その宇宙の向こう側に、典子は本当の自由を感じ始めるのだった。お茶を習い始めて10年。いつも一歩前を進んで
いた美智子は結婚し、ひとり残された典子は、好きになったはずのお茶にも限界を感じていた。中途採用の就職試験
にも失敗。お点前の正確さや知識で後輩に抜かれ、武田先生には、そろそろ工夫というものをしなさいと指摘される。
大好きな父(鶴見辰吾)とも疎遠な日々が続いていたある日、典子に転機が訪れる……。(Movie Walker)

<KINENOTE=78.0点>



by jazzyoba0083 | 2019-01-21 15:50 | 邦画・新作 | Trackback | Comments(0)