サンキュー・スモーキング Thank You for Smoking

●「サンキュー・スモーキング Thanki You for Smoking」
2005 アメリカ Room 9 Entertainment,TYFS Productions LLC,ContentFilm.93min.
監督:ジェイソン・ライトマン  クリストファー・バックリー:『ニコチン・ウォーズ』
出演:アーロン・エッカート、デヴィッド・ケックナー、キャメロン・ブライト、ロブ・ロウ、サム・エリオット
   ケイティ・ホームズ、ウィリアム・M・メイシー、J・K・シモンズ、ロバート・デュバル他

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<評価:★★★★★★★☆☆☆+α>
<感想>
「ジュノ/JUNO」「マイレージ、マイライフ」のジェイソン・ライトマンの長編処女作。のっけから
インパクト大の作品となった。ブラックコメディー風だが、アメリカへの風刺、父と息子の関係、自分の
得意技と社会倫理の関係など様々な視点を訴えてくる。続けて二回観た。

私の個人的感想だが、これは別にタバコで無くても良かったのではないか。作品の中には様々なキーワードが
頻出する。「人はみなローンのために働いている」とか、「マジック・ジョンソンはバスケ、マンソンは人殺し、
僕はロビイストが才能だったのさ。誰にでも才能はある」

主人公ニックはタバコ業界のロビイストだ。日本ではロビイストという業種は馴染みが少ないが、いわゆる
業界のスポークスマン、広報官のようなもの。敵対するものを懐柔し、時には金を使い、議会工作をし、と。
更にニックの中の良い友人ロビイストにアルコール業界のポーリーと銃産業界のボビーの「死の商人クラブの
飲み会で、お互いのウサを晴らしている。この3つのうち最大の死者を出しているのがタバコ産業だ。
ニックは団体の指示で、ハリウッド映画に喫煙シーンを入れる工作をするためLAに飛ぶ。カリスマ製作者
ジェフ(ロブ・ロウ)と会い、ブラッド・ピットとキャサリン・ゼタ=ジョーンズ主演の宇宙モノの映画を
作ろうということなるが、ギャラが2500万ドルと聞いてビックリ!(ブラピは絶対にそんな映画に出ないことは
アメリカでは周知の事実)またテレビに出た時、ニックはテロの予告を受けてしま。彼らの手口はニックに
ニコチンパッチを貼りまくるということ。多量のニコチンが体内に吸収されたニックはニコチンショックになり
前後不明に陥る。が、タバコを吸っていたおかげて、命拾いした。団体は被害者としてそこを主張しようと
言い出す。そんなころ、仲良しの巨乳美人記者にピロートークで語ったことを全部新聞に書かれ自分たちが
いかに反国民的なことをやっているかと仲間のポーリーとボビーのことまで書かれてしまった。

更にタバコのパッケージにドクロマークを入れる上院公聴会に呼ばれる。ニックは、これぞ詭弁という数々を
披瀝、タバコにドクロマークをつけるというのなら、なぜボーイングの飛行機につけないのか、フォードの
クルマに付けないのか・・・
そして委員長に、自分の息子が18歳になったらタバコを一緒に吸うのか、と問われると、「自分が吸うと
いえば、買ってやる」と答える。実はニックの行動にはずっと息子がついてまわっていたのだ。息子は父の
行動を見ていて、いろいろと勉強する。公聴会が終わった後、ニックはタバコ業界のロビイストを辞める。
今度はロビイストアドバイザーの仕事を見つけてきたようだ。

この映画、タバコの話をしているのに一切の喫煙シーンが出てこない。だれもタバコを吸っていない。
銃とアルコールは出てくるけど。そして、ニックの息子の語る、薀蓄のあるセリフが映画の本質を語って
いるようでもあった。それにニックは自分が喋ること、詭弁を弄する事が得意だからたまたま今の仕事を
しているだけであって、別に「タバコを推奨」してもいないし「タバコが体に良い」とも言わず、むしろ
公聴会では「肺疾患の元だ」と素直に認める。
それはすなわち、アルコールでも銃でもタバコでも、親と学校の教育と自分の意思こそ大事だ、と言って
いるに過ぎない。そしてニックは自分の天性がこうした仕事にあることを見つけたに過ぎない。マスコミに
ニックは「情報操作の王」と言われるが、息子はそれを誇りに思うのだった。やっていることの良し悪しで
はなく、自分の能力を力いっぱい発揮している姿を息子は尊敬していたのだ。

だから冒頭でもいったように、「喫煙家」VS「嫌煙家」の中に入り込んだ業界ロビイストの奮戦を
コミカルにブラックに風刺的に描いたものではないのだ。アメリカのどの仕事にもあるありふれた
問題「すべての労働者はローンのために働いている」という反語的なセリフが意味を持ってくるのだ。
ニックが親子で遊園地でソフトクリームのバニラとチョコの論議をするところも意味深い。結局は「自分が
きちんと勉強して理解し、納得すること。多様性を認めること」ということ。だが、一方でタバコ由来、
アルコール由来、銃由来で多量の医療費が費やされ、保険が支払われ、命が失われていくアメリカの現状を
思う時、「おまえら、いい加減な考えて臨むんじゃないぞ」と言われているようだ。それはクルマや食品、
原発などでも同じだ。
本作から何を受け取るか、はなかなか反語的なので難しいと思うが極めて今日のアメリカ的な側面をえぐった
良作と言えよう。

それにしても配役が豪華で驚いた。オープニングタイトルバックがタバコのパッケージ風でかっこいい!
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<ストーリー>
ニック・ネイラー(アーロン・エッカート)はタバコ業界を代表する凄腕のPRマン。“情報操作の王”の異名を取る彼は、高まる禁煙運動からの攻撃を魅力的なスマイルと巧みな論理のすり替えで丸め込み、業界の繁栄のために努力し続けている。本音を言える相手は、同じ悪評高いPRマン仲間であるアルコール業界のポリー・ベイリー(マリア・ベロ)と、銃製造業界のボビー・ジェイ・ブリス(デヴィッド・コークナー)だけ。それでもニックは、ハリウッドのスーパー・エージェント、ジェフ・マゴール(ロブ・ロウ)と組んで、喫煙シーンを盛り込んだSF映画を作ろうとしたり、タバコのパッケージにドクロ・マークを付けたがっているフィニスター上院議員(ウィリアム・H・メイシー)と闘ったりなど、刺激的な日々を過ごしていた。しかし、過激派の嫌煙団体から命を狙われたあげく、ベッド・インしてスクープを狙う女性新聞記者、ヘザー・ホロウェイ(ケイト・ホームズ)の罠にハマってしまい、ニックは仕事を失ってしまう。一気にどん底へと落ちた彼に、“情報操作の王”のプライドを思い出させたのは、別れた妻との間の息子ジョーイ(キャメロン・ブライト)だった。彼の叱咤激励を受けてやる気を取り戻したニックは、上院議員の公聴会に出席。そして起死回生のために証言台に立つのだった。

<IMDb=★7.6>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:86% Audience Score:87% >
<Metacritic=71>
<KINENOTE=72.9点>



by jazzyoba0083 | 2019-04-10 22:45 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)