歓びのトスカーナ La pazza gioia

●「歓びのトスカーナ La pazza gioia」
2016 イタリア Lotus Production,Motorino AmarantoManny Films.116min.
監督:パオロ・ヴィルズィ
出演ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ミカエラ・ラマツォッティ、ヴァレンティーナ・カルネルッティ他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
皆さん書かれていますが、邦題の持つ伊トスカーナ地方の光景たっぷりの恋愛映画ではない。逆に、人間が生きると
はどういうことなのか、という本質に迫った重い映画だ。だが、作劇的には真正面に重さを捉えず、軽度の
精神障害を抱える主人公ベアトリーチェ(テデスキ)と、後から入所してくるドナッテラの「躁」と「鬱」
の背景を描きつつ、私達はこうした人たちをどう見て、どう接すべきか、社会はこうした人達をどう
社会に組み込んでいくか、について映画を観ているうちに自然と想いを致す仕組みとなっている。

それにしても「躁」状態のテデスキのセリフは、猛烈な量であり、映画の最初から最後まで喋り詰め。
彼女は虚言癖があり、そのセリフが、よく出来ていて、普通の人なら信じてしまうような嘘をつく。
これはもう「天才的」な才能とさえいえてしまうようなものだ。また衣装とか、手にするウソっぽい
和傘など、ガジェット的にも思考の側面を応援していて考えられているなあ、と唸ってしまった。

一方でドナッテラ(ラマツォッティ)は、全身タトゥーでパンクな風貌、寡黙で人生を投げやっている
感じだ。おせっかいのベアトリーチェはドナッテラが気になって仕方がない。そこで彼女が唯一抱える
最大の問題、長男に会いたい、という希望を叶えるために施設を脱走し、盛大かつ誠しやかな(自分は
嘘をいっているつもりはない)嘘を付きまくりつつ、次第に彼女の息子の存在に近づいていく。

ストーリーはそんなに難しいくないのだが、提示されているテーマは相当に深い。軽度の精神的な病を抱えた
人たちは、私達は彼らをどう見るべきなのか。またその治療はどうあるべきなのか。ベアトリーチェも
ドナッテラも普通に観るならごく普通の人と変わらない。少し話すとなんかおかしいな、と分かって来る
程度。

とにかくベアトリーチェ(テデスキ)の圧倒的なおしゃべりが猛烈だし、セリフ自体がとても良く出来
ているので、シリアスな映画なのにどこか楽しい。重いテーマなのだが描き方が暗くなく、南イタリアの
乾燥した空気と色が、映画を親しみやすくする効果を生んでいる。テデスキで成り立っている映画、という
ことも出来る。
さらにラスト、自分の息子の姿を海岸で確認したドナッテロは、歩いて施設に帰ってくるのだが、が門の
前で崩れるように倒れてしまう。

ベアトリーチェもドナッテロも帰るところは、結局この施設なのだ。普通に暮らしたい人々を普通に
近いかたちで暮らせる方法はないのか。2015年、イタリアは司法精神病院を全廃し、ベアトリーチェら
が暮らしていたような緩い規則の元で治療生活をする形に変えたということだ。健常者とちょっと心に傷を
負った人たちの接点をどこで見出すのか、難しい問題を軽快(でもないか)なタッチをもって社会的弱者の
ある側面に切り込んだ監督の慧眼が光る。

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<ストーリー>
 「人間の値打ち」のパオロ・ヴィルズィ監督が、再び主演にヴァレリア・ブルーニ・テデスキを起用し、
イタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞・監督賞・主演女優賞を含む
5部門を受賞した感動ドラマ。精神を病んで診療施設に収容された対照的な2人の女性を主人公に、引き
離された息子に会うため施設を抜け出した2人の破天荒な逃避行の行方を、その道中で深まる友情と、
それぞれの過酷な人生とともに描き出す。共演は監督夫人でもあるミカエラ・ラマツォッティ。

 イタリア、トスカーナ州の診療施設“ヴィラ・ビオンディ”。そこでは心に問題を抱えた女性たちが、
社会に復帰するための治療を受けていた。この施設で女王様のように振る舞うベアトリーチェは、極度の
虚言癖を持ち、ハイテンションでしゃべりまくる自称、伯爵夫人。
そんな彼女の目に留まったのが、体中タトゥーだらけでガリガリの新顔ドナテッラ。決して心を開こうと
しない彼女に何かと世話を焼くベアトリーチェは、やがてドナテッラが最愛の息子と引き離されてしまった
ことを知る。そこでドナテッラを息子に会わせてあげようと決意するベアトリーチェだったが…。
(allcinema)


<IMDb=★7.2 >
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:83% Audiece Score:81%>
<Metacirtic=74 >
<KINENOTE=68.0点>


by jazzyoba0083 | 2019-05-07 23:10 | Trackback | Comments(0)