乱れる

●「乱れる」
1964 日本 東宝 98分
監督:成瀬巳喜男 脚本:松山善三
出演:高峰秀子、加山雄三、三益愛子、草笛光子、白川由美、浜美枝、藤木悠、北村和夫、十朱久雄、柳谷寛他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
成瀬巳喜男作品は先日、かなりの本数をWOWOWで特集したのだが、録画の日が決まって大雨にあたって
しまい、うまく録画が出来ず、がっかりだった。その中には「浮雲」などもあった。

その中から先日「乱れる」を再映してくれたので鑑賞した。成瀬作品は彼のたくさんの作品のほんの2本ほど
しか(「めし」「山の音」)観ていないので、成瀬ファンからすると見当違いな感想もあるかもしれないが、
ご容赦頂きたい。鑑賞のチャンスがあれば、いろいろ観てみたい監督ではある。

女性描写の巨匠とか云われているそうだが、以前観た2本もそうだが、確かにそれは言えると思う。本作も
成瀬作品に多数出演した高峰秀子の演技(演出)が素晴らしいと思った。配役で上手いな、と感じたのは
あと、三益愛子。加山雄三は当時「若大将シリーズ」が大ヒットし、この手のメロドラマのキャスティングには
東宝的には欠かせなかったのであろうが、いさかか演技が生硬い。あとになって分かる彼の態度が最初のうち
演技が下手だけなのか、と勘違いしてしまう。バタ臭い顔つきが似合っているのかどうか。

時代は東京五輪の年である。撮影はその前の年だから新幹線はまだ未開通だ。舞台は静岡県の清水市。これが
分かるのは随分あとになってからだった。清水の商店街に出来たスーパーマーケットの開店1周年特売を知らせ
る宣伝カー(トヨエース)が「高校3年生」を流しながら走るところから映画は始まる。宣伝カーが店の前に
帰ってくるところで、道路に駐車してあるクルマが、マツダキャロル、スバル360(初期)、クラウンエイト。
車好きとしてはたまらないシーンである。
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閑話休題。このスーパーが出来たことで個人商店は苦境に立たされている。そのウチの一軒が「森田酒店」
だった。この店は、戦死した跡取りの長男の嫁礼子(高峰)が18年間、ほぼ一人で焼け跡から立ち上げ直した
店だった。姑が三益愛子、この18年間の間に成長し、嫁に行った娘が草笛光子と白川由美だ。そして大学を
でたものの、商店街の店主連中と麻雀、パチンコ、バー通いというグータラ息子が加山雄三。

で、次男である幸司は、密かに義姉に恋しているわけ。時代が時代なのでなかなか打ち明けられない。それを
ぐーたらぐらしで隠していたのだ。年の差は11歳。
幸司は自分の店をスーパーにする計画を立て、義姉を重役に据えようとするが妹たちから反対にあう。妹たち
は礼子にお見合いを勧めたりして体よくこの家から出ていってもらいたいわけだ。遺産相続とかで揉めるのが
いやだから。

幸司はある日、礼子に自分が礼子がずっと好きだったと告白する。しかし古い時代の礼子は夫への操からか
幸司の愛情を受け入れようとはしない。しかし次第に自分の胸の内が苦しくなり、自分も幸司に好意を抱いて
いることを認識する。礼子はこれ以上、森田家に迷惑を掛けられないと、家を去り、秋田県は新庄市の実家
に帰ると宣言する。好きな人がいる、自分もまだ若いからやりたいことがある、と心にもないことを言う。
実家に帰る電車に幸司は乗り込み、母も家も捨てて義姉を一緒になることを選んだのだ。幸司は義姉との
愛が成就するのならどんな暮らしになってもいいとその覚悟を語るが、礼子はその愛情に心から感謝するもの
の、それを受け入れることは拒否したのだった。

ある駅で二人は降りて温泉宿の投宿する。幸司は義姉に愛情を受け入れるように迫るが、礼子はどうしても
受け入れることが出来ない。あなたはやはり清水に帰りなさい、と。

それを聞いて幸司は旅館から飛び出す。ある飲み屋から旅館に電話し、もう自分は諦めた、さよなら、と
礼子に語るのだった。翌朝、旅館の外が騒がしい。礼子が外を見ると警官らが一人の遺体を運んでいく
のが見えた。むしろから垂れ下がった指には昨夜礼子が幸司に結びつけた紙の指輪があった。必死の形相で
遺体のあとを追って走る礼子だった。
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というメロドラマ。本作はその後テレビでも何回かソープドラマとしてリメイクされている。戦死した兄嫁と
弟の恋愛とは、よく合ったことだろう。戦後20年も経過したものの、そうした影はまだ日本には残っていたの
だ。そして半年の結婚生活にしか過ぎなかった夫への貞節を守り、弟からの求愛を断ってしまったケースも
多々あっただろう。
この映画では高峰秀子の自己犠牲と忍ぶ愛の人の押さえつつも激情も感じる演技(表情)が実に時代感を
上手く表現していて見事だった。高峰を始めとして女優のこうした感情や表情を引き出す力量が成瀬には
備わっていたのだろう。これまで観た「山の音」「めし」も独特のタッチは感じた。そして本作も物語の
流れから、礼子が自害でもするのか、と思わせておいて、あのキャラの幸司が(おそらくは)自殺をする
結末とは。(自殺であったとは説明されないが、そうなのだろう。幸司のキャラには合わないけど)。
そしてラストカットの乱れ髪の礼子のアップショットの多弁なこと。
モノクロ、TOHOSCOPEなのに左右をサイドカットした映像表現に成瀬演出のコダワリを感じる。

やはり名作の呼び声高い「浮雲」あたりは観てみないといけないなと感じたのだった。

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<ストーリー>
礼子は戦争中学徒動員で清水に派遣された際、しずに見染められて森田屋酒店に嫁いだ。子供も出来ないまま、
夫に先だたれ、嫁ぎ先とはいえ、他人の中で礼子は森田家をきりもりしていた。森田家の次男幸司は、最近、
東京の会社をやめ、清水に帰っていた。何が原因か、女遊びや、パチンコ喧嘩と、その無軌道ぶりは手を
つけられない程だ。そんな幸司をいつも、優しくむかえるのは、義姉の礼子だった。再婚話しも断り、
十八年この家にいたのも、次男の幸司が成長する迄と思えばこそであった。

ある日見知らぬ女との、交際で口喧嘩となった礼子に幸司は、今までわだかまっていた胸の内をはきすてる
ように言った。馬鹿と言われようが、卑怯者といわれようが、僕は義姉さんの側にいたい」義姉への慕情が
純粋であるだけに苦しみ続けた幸司だったのだ。
それからの幸司は真剣に店をきりもりした。社長を幸司にしてスーパーマーケットにする話がもちあがった日、
礼子は家族を集め『せっかくの良い計画も、私が邪魔しているからです、私がこの店から手をひいて、
幸司さんに先頭に立ってスーパーマーケットをやって欲しい。私も元の貝塚礼子に戻って新しい人生に出発
します私にも隠していましたが、好きな人が郷里にいるのです』とうちあけた。
荷造りをする礼子に、幸司は「義姉さんは何故自分ばっかり傷つけるんだ」と責めた。『私は死んだ夫を
今でも愛してる、この気持は貴君には分からない』
礼子の出発の日、動き出した車の中に、思いがげない幸司の姿があった。
『送っていきたいんだ!!いいだろ』幸司の眼も美しく澄んでいた。(キネマ旬報)

<KINENOTE=80.4点>



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by jazzyoba0083 | 2019-09-18 23:10 | 邦画・旧作 | Trackback | Comments(0)