イエスタデイ

●「イエスタデイ Yesterday」
2019 イギリス Decibel Films,Etalon Film,Perfect World Pictures,Working Title Films.117min.
監督:ダニー・ボイル 脚本:リチャード・カーティス
出演:ヒメーシュパテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、ジョエル・フライ、エド・シーラン他

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<評価:★★★★★★★☆☆☆+α>
<感想>
こういう映画を観ると必ず書くのだが、「大向うを唸らせる作品ではないが、愛すべき一遍」だと。
本作も、アイデア勝負のコメディ&ラブストーリーで、読み解く必要のある物語があるわけではないし
映像的にどうだ、という面があるわけでもないが、観ている2時間、優しい気持ちになる「いい気分の
映画」である。

いわゆる「パラレルワールド」の概念にビートルズ不在の世界という、誰でも思いつくような事を映画に
してしまったのはさすがダニー・ボイル。イギリスの宝とも言うべきアーティストを弄るわけで、
ビートルズファンの中には、快く思わない方もいるかもしれない。しかし、「ノッティングヒルの恋人」、
「ラブ・アクチュアリー」という名作の脚本を手掛けているリチャード・カーティスの脚本は、ラブ・
ストーリーの仕上げもさすがな感じ。これを含め観ている人に多幸感を与える出来で、いい感じだなと思う。

私は個人的にリアルタイム世代なのでビートルズ大好きで、リスペクトしているが、この映画は大好きだ。
ダニー・ボイルは本家にきちんとリスペクト出来ていると感じた。ジョン・レノンが生きていて漁師を
やりながら画を描いているという78歳の老人として出てきたが、そっくりさんぶりはさて置いて、彼を
動く人物として出したことも賛否あるだろう。私は良かったと思うけど。劇中でも、謎の二人からもらった
メモを参考にジョンに会いに行くわけだが、これまでの世界では遠の昔に死んでいるジョンが78歳で
まだ存命だということにマリクは単純に喜ぶ。彼がミュージシャンでなくてもだ。単純な喜びが快い。

主人公ジャック・マリクが全世界十数秒の停電とそれに起因する彼の乗る自転車とバスの衝突事故により
もう一つの歴史の流れに突入するという設定。ありがちなスタートではあった。売れないストリート・
ミュージシャン、クラブ歌手である彼が突入したもう一つの世界にはビートルズがいなかったのだ。
退院後、事故で壊れたギターの代わりに新品を友人にプレゼントされ、お礼に何気なく歌ったのが
「イエスタデイ」だった。ここから彼の人生は180度変わる。

恐らく大スターになるのだろうな、幼馴染でマネージャー役のエリーとは別れなければならいだろうな、
とは観ている人は想像がつく。それをどう落とし前をつけるか、が脚本家の腕の見せ所だ。

エリーは自分を幼馴染の友人としか見ていないマリクをじれったく思いつつ自分から好きだとは言えない。
鈍感なマリクは如何なものか、とは思うなあ。ま、それは置いておいて、ビートルズのヒット曲をアコギで
歌ってもみんなあまり反応しないのが面白いところ。そして彼に目をつけるのがエド・シーランというのも
この映画の面白いところだ。エドは演技が上手い。

エドの前座を努め、モスクワで「Back In The USSR」を歌い、聴衆から熱狂を持って受け入れられた。
そして、想像通り5曲のネット配信で全世界に火がつき、大スターの階段を登り始めたのだった。

エドが周りの皆がビートルズをしらないのでPCでググるのだが、ビートルズと入れるとカブトムシと
フォルクスワーゲンが出てくるのみ。ジョンポール・ジョージリンゴといれてもローマ法王が出てくる。
ローリング・ストーンズは出てくるが、オアシスは出てこない。ダニー・ボイルが存在しているのは
監督のお遊び。それと新しいマリクの世界にはコカコーラが無いのだ。この辺りの小技は監督なのか
脚本家なのかなかなか良い。中年のおじさんとおばさんが黄色い潜水艦を示してやっってくるところは
「いよいよヤバいか」と思わせておいて、彼らはビートルズを知っていて誰も歌ってくれなくなって
しまった世界を嘆いていたのだ。だからマリクが歌ってくれたことに感謝しているという立場。彼らも
タイムスリップしてきたのかな。黄色い潜水艦を持って。

ビートルズの数々のヒット曲が、マリクの洗濯機の中に放り込まれたような新しい人生の折節に歌詞が
上手く合うように選曲されているのが、ビートルズファンとしては嬉しいところだ。
「Yesterday」にしても「Help!」にしても、ラストの「Lady Madonna」にしても。

結局大スターになったマリクはエド・シーランのコンサートを借りて、数曲歌い、自分の歌は別の人が
作ったのだ、と告白。更に会場に来ていたエリーにI love youの告白をするのだった。
エリーは気がついてくれないマリクを諦めて、マリクのビートルズ曲にいち早く目をつけて自主録音し
手作りのCDを作成してくれたニックと付き合い始めていたのだった。しかしニックは潔く身を引く。
この辺りあまりにも良く出来すぎで、ご都合主義と言われてもしかたのないくだりだろう。

そしてその後。地元に戻ったマリクはエリーの勤める小学校で「Lady Madonna」をみんなで歌って
いた。その歌詞のように、二人のこどもに恵まれて、ささやかながら幸せな家庭を手にれたのだ。

結局マリクは元いた世界には戻らず、ビートルズとコカ・コーラが無い、いやハリー・ポッターも
いない世界に住み続けることになったのだった。

映画を観て振り返れば、小難しいストーリーがあるわけではなし、社会的意義など眉根にシワを
寄せるような中身もないわけだが、とにかく「多幸感」に包まれて観終わることが出来る映画だ。
この手の映画はアメリカの批評サイトRotten Tomatoesの評価を見るとよく分かる。専門家と
大衆のウケが全然違うから。映画としての出来、という点からすれば辛い点になるだろうが、
観た人が幸せな感じになるというなら、「良い映画」というくくりでいいのではないか。また
観たい。
個人的にはエリーを演じたリリー・ジェームズの「普通の美しさ」に参ってしまったのだった。

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<ストーリー>
トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督と「ノッティング
ヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」の脚本家リチャード・カーティスの初コラボで贈る音楽
ファンタジー・コメディ。

ある日突然、自分以外の誰もビートルズの曲を知らない世界に迷い込んでしまった青年が、彼らの
名曲の数々を新曲として発表し一躍大スターとなっていく興奮と戸惑いの行方を描く。
主演は英国の人気TVシリーズ「EastEnders」に出演のヒメーシュ・パテル。
共演にリリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン。またエド・シーランの本人役での出演も話題に。

 売れないミュージシャンのジャックが夢を諦めたその日、世界規模で12秒間の大停電が起きる。
その瞬間、交通事故に遭い、意識を失って病院に担ぎ込まれたジャック。
彼が目覚めると、そこはなぜか歴史上からビートルズの存在が完全に消えた世界になっていた。
ジャックが仲間たちに弾き語りでビートルズの『イエスタデイ』を披露すると、幼なじみで友人の
エリーは初めて聴く美しいメロディに驚き、大感動してしまう。
やがてジャックが歌うビートルズの名曲の数々は、彼の持ち歌として世間の注目を集め、瞬く間に
スターへの階段を駆け上っていくジャックだったが…。(allcinema)

<IMDb=★6.9>
<Metacritic=56>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:62% Audience Score:89%>





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Tracked from ここなつ映画レビュー at 2019-10-29 10:13
タイトル : 「イエスタデイ」
ベタベタだけど面白かった。ベタベタだけど泣けた。劇場予告編で予期していた内容ではあったけれど、予想できなかった展開もあり、そこも面白かった点のひとつである。ある瞬間を境に、世界規模で失われた記憶(記録)があり、そのひとつに「ビートルズ」があった。「ビートルズ」という存在。歌もメンバーも何もかも。ただ、何故かその瞬間に交通事故に遭ったジャック・マリク(ヒメーシュ・パテル)だけは「ビートルズ」のことを覚えていたのだ。ジャックは売れないミュージシャン。夢を追い続けてはいるものの、成功には程遠い。幼馴染で、...... more
Tracked from 象のロケット at 2019-10-30 03:02
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タイトル : 映画「YESTERDAY(イエスタデイ)」の感想
率直な感想は、涙の連続でした。続きを読む…... more
Commented by kogarinta at 2019-10-30 12:39
こんにちは。幣ブログをご訪問くださってありがとうございました。また、その他の作品にもTBをつけてくださりありがとうございます。
本作、ダサいジャックのシンデレラ・ストーリーではありますが、彼が善人の本質を最後に出せた部分が良かったと思っております。
by jazzyoba0083 | 2019-10-14 11:25 | 洋画=あ行 | Trackback(3) | Comments(1)