ラスト・オブ・モヒカン The Last of the Mochicans

●「ラスト・オブ・モヒカン The Last of the Mochicans」
1992 アメリカ Morgan Creek Entertainment,Twentieth Century Fox. 112min.
監督:マイケル・マン 原作:ジェームズ・フェニモア・クーパー「モヒカン族の最後」(1826年)
出演:ダニエル・デイ=ルイス、マデリーン・ストウ、ジョディ・メイ、ラッセル・ミーンズ、
   エリック・シュウェイク、スティーヴン・ウォディントン、ピート・ポスルスウェイト他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
タイトルだけは知ってはいたものの、未見だった作品。日本史では江戸時代後期、幕末に
近い頃に著された小説の映画化で、これまでに無声映画も含め4本映画になっている。
恐らくアメリカでは多くの人が知っている名作なのであろう。

アメリカ独立戦争(1775~1783)の前、北アメリカ東部で植民地を巡り争っていた
グレートブリテン王国とフランス王国、それぞれに同盟している先住民(インディアン)
の間に起きたいわゆる「フレンチ・インディアン戦争」。
この映画は、ここにおける恋愛アドヴェンチャーではあるが、根っこはアメリカ先住民の
悲劇を謳っている作品とみた。

本作を観たことにより、その背景をより詳細に知りたくて、上記「フレンチ・インディアン
戦争」やアメリカ独立戦争などを調べてみた。アメリカの州の名前や都市の名前を見ると
よく分かるのだが、独立戦争前のアメリカ東部では、13植民地を中心とするイギリス、
ケベックやモントリオールを主力とするフランス、メキシコやカリブ海、フロリダ辺りに
勢力を伸ばしてきたスペイン王国が対峙する状況であった。そしてそれぞれの列強の背後に
は自分の庭に勝手に入ってきた欧州の文明を持った国々について、彼らを後ろ盾に自らを
守ろうとするインディアンの各部族が付いて同盟していた。

先住民にしてみれば、北米各地にそれぞれの部族が自給自足、交換経済で少しの紛争は
ありながらも、狩りをし、農作もして自分たちの暮らしを確立してたところ、ある日、
文明で武装した帝国主義列強が乗り込んできて、自国の版図を広げるべく、先住民を
追い立てた。
英仏西蘭らの銃や大砲の前には叶うはずもなく、先住民はそれぞれの庇護を受けつつ
彼らと同盟を結ばざるを得ない状況に追い込まれていったのだった。

そうしたアメリカ独立以前の先住民が置かれた状況を理解しないとこの映画の面白さも
半減するだろう。コーラとホークアイ、アリスとウンカスの悲恋に物語を矮小化しては
面白みも減るだろう。(悲恋とそれを巡る冒険も良いのだが)
ヒューロン族のマグアがフランス軍と組んで英国軍の司令官を憎む背景も理解しないと
ただの野蛮人になってしまう。またホークアイがモヒカン族の酋長の息子ではあるが、
白人であり養子であるというのも物語の「綾」を深めている。これを若きダニエル・
デイ=ルイスが好演している。

物語はダイナミックであり、大きな歴史は踏まえつつ、細部は物語として脚色してある。
その辺りのいじりようは原作に依るのだろうが、マイケル・マンのカメラ使いや演出も
光っていた。アメリカの大自然を大いに取り入れて観ている人を楽しませている。

本作の戦いではイギリス軍はフランス軍に敗れるが、やがてイギリス軍は勢力を
盛り返し、フランス軍を駆逐し、独立戦争前夜には東海岸はイギリス13植民地と英国
派遣軍の勢力下に置かれたのだった。そしてこれが更にアメリカ合衆国の独立に向けた
戦いへと進むわけだ。独立戦争においては、かつて戦った独立13植民地軍にフランス
軍は独立軍に味方するのだから帝国主義の権謀術数は面白い。
さらに独立したアメリカはアフリカから黒人奴隷を連れてくるわけで、その問題が今日
まで根深く人種差別という問題になって残っているという(もちろん先住民問題も
大きな社会問題だ)アメリカは若い国、というが彼の大国が抱える闇が深いことを
知るのだ。

余計なことを多く書きすぎたが、本作の物語では、劣勢に立たされた英国軍が民兵を
巻き込みながらフランス軍と戦うという歴史の大きな流れを踏まえる。そして英国軍
の民兵になれといわれるも、距離をおいて独立を保つモヒカン族の3人(酋長、ウンカス、
ホークアイ)と、フランス軍と同盟を結んだヒューロン族の武闘派リーダーにして
自分の妻や子どもを英国軍(司令官はコーラとアリスの父)に殺され恨み骨髄の
マグアという先住民同士の相克が背景に流れる。
これにもう一つのテーマであるホークアイとコーラ、ウンカスとアリスの悲恋が絡ん
でくるという仕立てだ。

モヒカン族の3人とマグアらの先住民サイドの描かれ方と役者たちの演技がアメリカの
大自然に馴染んで心地よい。また二人の白人姉妹の儚げさもまた対比的に上手かった。
音楽が少し重すぎの感じを個人的には受けた。
「歴史の悲劇」と「悲恋」が上手く融合し、見応えのある作品だった。色々ある割には
上映時間も適度。

ちなみにモヒカン族は滅びておらず、現在も子孫は健在だそうだ。

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<ストーリー>
1757年、独立前夜のアメリカ東部。コーラ(マデリーン・ストウ)は妹アリス
(ジョディ・メイ)と共に、英軍を率いる父、マンロー大佐(モーリス・ローヴス)に
会うため、植民地争いの最前線へと向かっていた。護衛隊を指揮するヘイワード少佐
(スティーヴン・ワディンソン)に求婚されていたが、答えを出せずにいる。

突然仏軍側のインディアン、マンロー大佐の軍に妻子を殺されたマグア(ウェス・
ステューディ)率いるヒューロン族が一行を襲った。コーラに銃口が向けられた時、
モヒカン族の酋長チンガチェック(ラッセル・ミーンズ)と2人の息子、ウンカス
(エリック・シュウェイグ)とホークアイ(ダニエル・デイ=ルイス)が現れ彼女を
救った。ホークアイは、イギリス人開拓者の孤児だった。彼らは大佐の待つ砦に
一行を案内する。コーラとホークアイは愛し合うようになっていた。
だが、嫉妬にかられたヘイワードがホークアイを反逆罪で捕え、牢に入れてしまう。

仏軍の猛攻の前に、やむなく降伏したマンロー大佐らは砦を出るが、そこへまた
ヒューロン族が襲いかかった。混乱の中コーラを救うホークアイ。酋長とウンカスも
駆け付けアリスを救い出すが、大佐は命を落とす。逃避行の中で、ウンカスと
アリスの間にも愛が芽生えていた。

一行は激流を下るが、ホークアイは、コーラにヘイワードと共に別行動をすすめ、
説き伏せると、目もくらむ高さの滝を飛び降りていった。しかしコーラとアリスは
ヒューロン族に捕らえられてしまう。ホークアイはヘイワードを通訳にしてヒューロン
族の酋長に2人を助けてほしいとかけ合うが、酋長は、コーラを火あぶりの刑にし、
アリスはマグアと結婚させると宣言、コーラの身代りに自分を殺せというホークアイの
言葉を、ヘイワードは、自分をと言い換え(て、通訳し)コーラの代わりに処刑される。
コーラとホークアイは釈放されるが、ウンカスが単身アリスを助けに乗り込み、
殺される。アリスも投身自殺し、激怒したチンガチエックは、マグアに戦いを挑み、
倒す。最後のモヒカン族、チンガチエックとホークアイ、そしてコーラは、ウンカスと
アリスを弔うのだった。(キネマ旬報)

<IMDb=★7.7>
<Metacritic=76>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:93% Audience Score:88%>
<KINENOTE=71.9 点>






by jazzyoba0083 | 2020-10-17 22:20 | 洋画=ら~わ行 | Trackback(1) | Comments(0)