2023年 01月 31日
影の車
<映画com=3.6/5>
野村芳太郎監督、橋本忍脚本、川又昂撮影、芥川也寸志音楽という、松本清張の映画化の常連のベテランたちが結集して作った「影の車」(原作のタイトルは「潜在光景」)は、清張物の中では、「砂の器」と並んで最高傑作の映画だと思います。
開巻早々、サラリーマンたちがそわそわと退勤し、新興住宅地を走るバスで家路を急ぐシークエンスだけで、映画は昭和45年のムードを見事に描き出します。
昭和45年と言えば、大阪万博の年、戦後の高度経済成長期を虚心に駆け上がって来た人々が、慎ましくも衣食満ち足りて、郊外に新しい家を構え、精神的な踊り場にさしかかったような頃だったと言えると思います。
そして、そんな大多数の中の、普通の市民のひとりであったはずの、旅行案内所でこつこつ働く浜島(加藤剛)が、再会した幼馴染みの泰子(岩下志麻)とほんの出来心で関係を結んでしまうところから、彼の平穏な日常にひびが入ります。
松本清張の小説にしばしば登場する、小心なくせに利己的で、女や賭博に溺れてしまう小市民の男を、加藤剛が絶妙に演じているんですね。
俳優座所属の演技派の加藤剛は、日本のロバート・レッドフォードと言われるように、その端正な容貌から、「砂の器」の劇画チックで悲劇的な二枚目や、TVの「大岡越前」のような生硬なヒーローといった役柄を配されることが多いのですが、実はこういう精神的な脆弱さが表に出たような、"小物の悪人"といった役柄が凄く似合っていると思います。
恐らく、本人もいつにない役柄を面白がって熱演したのだと思いますが、この「影の車」の勤続12年の係長役は、本人があまり気にいらなかったという「砂の器」の天才作曲家役よりも、ずっと加藤剛という俳優の潜在的な才能を引き出していたと思います。⇒ VOL.2へ続く
いつもお読み頂きありがとうございます。「影の車」、野村作品の中でも異色な感じのサスペンスで相変わらず乗り物と風俗を上手く取り入れて見ごたえがあります。
このころの俳優は存在感があります。最近の映画はテレビで見た顔ばかりで感情移入しづらいです。



