バウンティフルへの旅 The Trip to Bountiful

●「バウンティフルへの旅 The Trip to Bountiful」
1985 アメリカ FilmDallas Pictures,Bountiful Film Partners.106min.
監督:ピーター・マスターソン 原作・脚本:ホートン・フート
出演:ジェラルディン・ペイジ、ジョン・ハード、レベッカ・デモーネイ、カーリン・グリン他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<評価>
WOWOWがかつてのオスカー受賞作をいくつか放送した中にあった作品。これまでその存在を
まったく知らなかったし、恥ずかしながらジェラルディン・ペイジが主演女優賞を受賞したことも
初めて知った次第。

もう今から40年近くも前の作品で、こういうテイストは「ハリーとトント」「サイダーハウス・
ルール」「フライド・グリーン・トマト」「ギルバート・グレイプ」「ドライビング・ミス・デイジー」
などなどの心温まる家族や友人の「情」を上手く描いた優れた映画が沢山あったと思う。
ブロックバスター系の映画ではないので、ハリウッドでは作りたくても作れない事情になっているのだ
ろうと感じる。その手の映画は今はイギリスやフランス、スペイン、またNetflixなどの配信系に
行ってしまった感がある。

「バウンティフルへの旅」のような映画はささくれた時代の今だからこそ、観るとほのぼのと心
温まり、またしみじみしてしまうのだ。
物語自体はどうということはないのだが、都会の息子と嫁の家に同居している老婆が、自分の心の
故郷であるバウンティフルという土地へ死ぬまでに一度でもいいから行きたいと願い、それを実行
するロードムービーだ。

懐古趣味がすべて良いとは思わないが、人はだれでも育った土地への望郷、愛着はあるだろう。
が、老婆はやがて現実を知ることになり・・・。
主人公の老婆も最後では息子夫婦の言う事を聞くと約束して都会に戻ることになる。

嫁の尻の下に敷かれた優しい息子、姑のやることにいちいちケチを付けて年金チェックに目を
付けて自分でお金をコントロールしようとする気の強い嫁。老婆は自分が親や兄弟と過ごした
緑豊かなバウンティフルへ黙って出かける。そのバスの中で知り合う夫が軍人で外地に赴任した
ため夫の実家に帰るテルマという若い女性と知り合い、お互いの事情を話すうちに打ち解ける。
彼女と別れ、乗り換え駅で彼女を田舎に連れていってくれたのは、嫁から捜索願を受けていた
警察の保安官だった。彼は老婆の話を聞き、今は廃れて人が住んでいない荒れたバウンティフルへ
連れて行ってくれたのだ。昔とすっかり変わり果ててしまった故郷を見て自分の置かれた環境と
シンクロする状況を理解した老婆。迎えに来た息子と都会へと帰っていく。
自分も老いたように、故郷も枯れ果ててしまっていた現実を彼女は受け入れざるを得なかった。

この映画の優れた点は、老婆と行き合う人たちとの心の触れ合いであろう。鬼嫁も最後には譲歩
したりする。自分が老いていく、住んでいた場所も廃墟になり駅さえ廃駅となる、周りの価値観は
変化するがそれに合わせたくない自分と合わせなくてはならない自分。人間だれでも通過する
人生の老年期の想いをオスカー主演女優賞を獲ったジェラルディン・ペイジのナチュラルな演技で
(少しわざとらしい大げさな=クサイともいえる=演技は目についたが)描き出していく。
老人の居場所についての鋭い指摘を含んでいるともいえる。(この時彼女は60歳だから相当な老け
メイクだったんだろうか)
共演のレベッカ・デモーネイもいい味を出している。
(しかし夜行のバスの中で賛美歌は歌うは、大声で喋るわの老婆にだれも文句を言わないのが
アメリカらしいのか?日本だったら「静かにして!」と誰かがいうだろう)

今の映画みたいに3時間もない上映時間を終わると、観た人はそれぞれに何かしらを思うに違いない。
こんな佳作が隠れていたとは。

※因みにこの1985年という年には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「蜘蛛女のキス」
「カラー・パープル」などが創られた年なんだ。ずいぶん時間を感じる。

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<ストーリー>
キャリー・ワッツ(ジェラルディン・ペイジ)は、ヒューストンで息子のルーディ(ジョン・ハード)
と嫁のジェシー・メイ(カーリン・グリン)と共に暮らしている。
優柔不断な息子と気むずかしい嫁のもとで口論が絶えない毎日を送っているキャリーは、ある日
ロッキング・チェアで休んでいる時、故郷バウンティフルの町を思い出した。

彼女は家から逃げ出そうとこっそりと小切手をためていたのだが、その日、ルーディたちが「あの
小切手はどこ?」と尋ねたのをきっかけに、翌日、キャリーは、ジェシー・メイが外出したすきに
逃げ出した。小切手を現金に換えることもできず、小銭を集めて何とかチケットを購入した
キャリーは、母の不在を知って追いかけてきた息子夫婦からたくみに隠れ逃げ、汽車に乗った。
(筆者註:汽車に乗ろうとしたが駅が廃駅となり、バスに変更したから乗ったのはバス)

席の隣あわせになったテルマ(レベッカ・デ・モーネイ)のやさしさに心がなごむキャリー。
夫の軍隊遠征中にひとり親戚の家に行く途中だとテルマは語った。
テルマと別れてテキサスの田舎の停留所の待合室にいたキャリーのもとにシェリフ(リチャード・
ブラッドフォード)がやってきた。行方不明の届けが息子夫婦から出ていて、キャリーを保護しに
来たのだ。

しかし、バウンティフルの家が見たいというキャリーの強い想いにうたれて、シェリフは少し
ぐらいなら、とバウンティフル行きを承諾した。キャリーの胸は高まる。
しかし、20年前のその地はもはやなく、今は住む人もいない荒地と化していた。
しばらくすると、ルーディとジェシー・メイが迎えに来た。
息子の肩に抱かれて車に乗り込むキャシー……。(キネマ旬報)

<IMDb=★7.4>
<Metascore=81>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:100% Audeience Score:86%>
<KINENOTE=67.2点>
<映画com=3.5/5>





by jazzyoba0083 | 2024-04-01 11:54 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)