関心領域 The Zone of Interest

●「関心領域 The Zone of Interest」
2023 アメリカ・イギリス・ポーランド JW Films,Extreme Emotions and more.A24 Present. 106min.
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー 原作:マーティン・エイミス
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォース他

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<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
関心の無い人、想像力の働かない人には、何の映画か分からない作品。今年のオスカーを
賑わせた作品。結果外国語映画賞と音響賞を獲得、カンヌではグランプリに輝いた。

A24の映画なんで、ただでは済まないとは思って観始めたが、こんなにただでは済まない映画も
珍しいだろう。冒頭の数分とエンドの1分位は真っ黒な画面に低音が響いているのみ。
映画のアウトラインは承知して観に行ったので、どういう光景が展開されるか、は一応分かって
いるつもりではあった。ほぼクロースアップの無いロングショット中、ポーランドのアウシュビッツ
収容所の真横に作られた所長ルドルフ・ヘス一家の日常が淡々と綴られる。

が、音響賞を獲ったように、塀の向こうから聞こえてくる音に注目しなければならない。そこから
観客は多くの情報を得るだろう。頻繁に鳴り響く銃声。あ、またユダヤ人が殺された、意味は
伝わらないが、怒号のような響き。唯一、りんごの取り合いで争いになった数人(と思われる)が
警備の兵士に見つかって川に沈められるという会話があった。また淡々とした日常の中の節々に
隣で何が行われているかを伺わせるトピックが挿入される。また森の向こうを蒸気機関の煙が過ぎる
カットもある。これは収容所に、また大勢のユダヤ人が虐殺されに運ばれてきたということを意味して
いる。有刺鉄線のある塀の向こうには明らかに監視塔と思われる建物があり、煙突からは黒い煙が
ずっと上っている。匂いもするだろう。
銃声が何かなんて家族が分からないはずはないのであって、家族は塀の向こうの出来事は分かっている。
しかし、自分には関心の無いこと。ユダヤ人のメイドがドジをすると夫人は「主人に頼んで灰にして
もらうわよ!」とか言っているわけだから。ヘスはユダヤ人の若い女性を連れ込んで慰めものにしている。

ヘスが昇進して転勤になるというと、夫人は、「こんな快適な暮らしから離れるのは絶対に嫌だ」
と主張するありさま。家の裏の畑には灰が撒かれている。ヘスは本当はこんな仕事は嫌だったという
印象がある。転勤を喜び、医者に胃を診てもらうシーンがあり、ラスト前に彼は階段を降りながら
二度ばかり嘔吐する。相当神経をやられていたのではないかと思わせた。

シーンは一気に現代のアウシュビッツ博物館へと飛ぶ。そこでは清掃作業が続いている。焼却炉、
虐殺された人たちの遺品、靴、カバン、のガラスを磨く人。ヘスが子供等が川で遊んでいて
慌てて連れ出し、家で洗うシーンがあるがこれはユダヤ人の灰が流れてくる川だからだ。
現代のシーンで一生懸命掃除する人々を写すことにより、ヘスの行動と並べて「洗って済む問題では
ないだろう」という暗喩のように思えるのだ。

無関心であることの狂気。これは決してあの時代だけのことではなく、現代のパレスチナ、ウクライナ
で行われていることへの警告でもあるのだろう。戦争だけではなく、社会にはびこる不正義に
関心を持たないことの罪の大きさを指摘している。

原作があるとは言え、映像の処理としての上手さ、本質の対象を一切見せないことで、音を大きく
フィーチャーして想像させる手法、これは冒頭の数分で、観客に黒い画面を見せることにより、
注意を喚起していると見えた。

静かな短い映画だが、驚愕度では本年一の作品。

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<プロダクションノート>
第96回アカデミー賞国際長編映画賞&音響賞、第76回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。
アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族たち。
穏やかな日常が続き、壁の向こうにはまるで何もないかのように暮らす彼らだったが……。
イギリスの作家マーティン・エイミスの同名小説を原作に、「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」の
ジョナサン・グレイザー監督が映画化。

第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)と
その妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)たち家族は、収容所と壁一枚隔てた屋敷で幸せに暮らして
いる。
広い庭には緑が生い茂り、そこにはどこにでもある穏やかな日常があった。空は青く、誰もが笑顔で、
子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。
そして、窓から見える壁の向こうでは、大きな建物から黒い煙があがっていた……。
(キネマ旬報)

<IMDb=★7.4>
<Metascore=92>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:93% Audience Score:78%>
<KINENOTE=73.8点>
<映画com=3.5/5>




by jazzyoba0083 | 2024-05-29 15:50 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)