アノーラ Anora

●「アノーラ Anora」
2024 アメリカ Cre Film,FilmNation Entertainment. 139min
監督・脚本・編集・(共同)製作:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ポリソフ、
   カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン他

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<評価:★★★★★★★★☆☆+α>
<感想>
2024年のオスカー5冠に輝いたインディーズ映画。カンヌでも最高賞パルムドールを獲っている。
界隈では著名なショーン・ベイカー監督の作品を観たのは初めて。まだ5作品目だけど。
日本では18歳未満は観られない。社会の底辺に生きる女性を手持ちカメラで追いかける。
シンデレラストーリーかと思わせながら、現代的な切り口をコメディタッチを含んで見せる手法は、
やはり上手いと感じる。
また「タガメ顔」(個人的感想です)のマイキー・マディソンを発掘してきて主演に据えたキャスティング
の先見性も鋭いと感じる。ロシアが背景にあるので、結果論だが内容がさらに非常に今日的になった感じが
した。
印象深い映画だと感じることは出来たが、ラストを含めどう理解したら良いのか違和感が拭いきれなかった
このことについては後述したい。

アノーラの感性を受け止めて、良い映画だ、オスカー受賞も頷けるという感想を初見で言える人は相当
感性の鋭い人ではないか。セックスワーカーをどうこう言うつもりはないが、好き嫌いの分かれる作品
ではあると思う。デートムービーではないことは確かだろう。過激かつえげつなさをどう感じるか。
セリフのほとんどに「F※※K」があり、しかも主人公のアノーラの口から出てくるし、F※※Kシーンも
多い。
これがオスカーなら日活ロマンポルノは全部オスカーじゃないか、とする感想もあった。

どういう経緯で主人公アノーラがセックスワーカー(個室での本番行為もあるストリッパー)になったのか、
は語られない。23歳であることは分かるが、前半を見る限りセックスが嫌いではなさそうだ。
同僚のダイアモンドと比べると頭は悪くはなさそうだ。恐らく彼女なりに生き方を探しているのだろうと
思われた。そんな折に祖母がソ連出身であったことでロシア語が分かることから店に来たオリガルヒの
バカ息子イヴァンと出会い、「本当の愛」を見つけたかのように思う(違うんだけど)。
1週間15,000ドルで専属契約を結び、父親の所有の豪邸でセックス+ドラッグ+パーティー+テレビ
ゲーム+金に糸目を付けない買い物に明け暮れた。

イヴァンは彼女に愛しているから結婚しようというが、戯れからであり本心でない事は明確だ。
観ている人は「アノーラ、ダメだよ」と思うが、別の愛の世界を見つけてしまったと勘違いしたアノーラ
イヴァンに誘われプライベートジェットでラスベガスに飛び、24時間営業、ドライブスルーOKの教会で
式を挙げ6カラットのダイヤモンド指輪を付けてもらい有頂天となった。自分は真の愛の世界を見つけ、
愛に満ちた生活を送れると思い込んでしまった。

一方、アメリカで用心棒を言いつけられている仮の姿をロシア正教の神父としているトロスと手下2人。
バカ息子が結婚し、その噂をモスクワで知った両親から電話で、「すぐ離婚させろ!娼婦なんか一族に
いれられるか!」と怒鳴られ、速攻バカ息子とアノーラが済む豪邸に向かう。このあたりに想像が
及ばなかったアノーラって??という感じ。

そこから後半はすっと喧嘩モード。口汚い罵り合い、言い訳、懇願、激怒、謝罪の繰り返しが続く。
このあたりから映画が一気に動き出す。バカ息子の素性が明らかになり、アノーラは絶望の淵に落ちる。
ラスベガスに戻り無理やり離婚させられ、バカ息子は両親とロシアに帰っていく。

ここで後半、監視役3人が豪邸に押しかけるあたりから分かってくる手下の一人イゴールの存在だ。
イゴールもまたどういう育ち方をしてチンピラになったのかは分からないが、アノーラが凄い強気の
女である裏に、壊れやすさ、哀しみを内包していることが直感的に理解する。アノーラがその事に
気がつくのはバカ息子が去ってからのこと。慰めてくれるイゴールからの愛情を感じるたのだが、
自分はそれにセックス行為でしか反応することが出来ないのだった。

本作の理解を深めるために町山智浩さんのYouTubeを観てみた。彼もまた、この映画に少なからず違和感
を感じていたようだ。
ザグラダのマリアに見られるように娼婦は聖なるもの、というテーマは古典的であり、またオスカーを獲り
やすいと解く。前例として「真夜中のカーボーイ」を挙げた。
またショーン・ベイカーは本作を書くに当たり、相当数の娼婦に関する映画を観たと語っており、その中には
「カビリアの夜」(フェリーニ)、日本の「赤線地帯」「肉体の門」もあったと指摘する。
それらの作品から影響を受けたということだ。

一方で、セックスワーカーで作家である女性のSNSでの投稿を引用し、アノーラの場合は店で見せる「女優」
としての自分と、普段の生活の自分というペルソナの区別がないと指摘。区別しないと自我が崩壊してしまうと
経験から言っている。確かに店でのバカ息子に対するセックスと豪邸の寝室で見せる姿は同一のような
気がする。更に町山氏はジェーン・フォンダ「コールガール」やペネロペ・クルス「ハスラー」を挙げ、
ペルソナの区別がはっきりした知的な、思慮の深い娼婦を描いた世界を挙げ、それに比べるとアノーラの
思慮の浅さを指摘している。冒頭私が感じた違和感は、どうやらその辺りから来ているのかもしれない。
アノーラのラストを観て心から応援したい、あるいは溜飲を下げるというカタルシスを得られなかったのは
その辺りに遠因がありそうだ。

また、監視役が豪邸に押しかけ、アノーラを電話のコードで縛るシーンをギャグとして扱うが、これを観て
フラッシュバックを覚える女性もいるとの投稿を挙げ、確かにあのシーンはギャグとして丁寧に描くべき
ではないと感じたと言っていた。全体を通して男性目線なのだと。以上の町山氏の感想や指摘を理解すると
この映画の違和感が腑に落ちるのだった。

ショーン・ベイカーの作品は社会の底辺で生きる貧乏で学もない人々を性を背景に描いてきた(そうだ)が、
アノーラのように思慮の浅さが招く悲劇もまた描き、そこに何を訴えようとするのだろうか。こうなっては
ダメだということか、こういう世界もあるとしたいのか。イゴールがアノーラに、アニーよりアノーラのほうが
いいよ、というセリフがあるが、アノーラは「聖なるもの」などの意味を含むようだ。ショーン・ベイカーは
それを分かっていて、思慮深くあれ、と訴えたかったのか。その辺りの回りくどさはどうなんだろう。
Rotten Tomatoesで評論家の評価より、大衆の評価が低いところに、またMetascoreよりIMDbの評価が低い
のは私のような感想を持った人が一定数いるのではないかと思えたのだ。

アノーラ Anora_e0040938_14231289.jpg

<ストーリー>
「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」「レッド・ロケット」などで高い評価を
受けてきたショーン・ベイカー監督が手がけた人間賛歌の物語。ニューヨークを舞台に、若きストリップ
ダンサーのアノーラが、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する等身大の生きざまを描いた。
2024年・第77回カンヌ国際映画祭でパルムドールを、第97回アカデミー賞では作品賞や監督賞、主演
女優賞など5部門を受賞した。

ニューヨークでストリップダンサーをしながら暮らすロシア系アメリカ人のアニーことアノーラは、
職場のクラブでロシア人の御曹司イヴァンと出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの
報酬で「契約彼女」になる。
パーティにショッピングにと贅沢三昧の日々を過ごした2人は、休暇の締めくくりにラスベガスの教会で
衝動的に結婚する。幸せ絶頂の2人だったが、ロシアにいるイヴァンの両親は、息子が娼婦と結婚したと
の噂を聞いて猛反発し、結婚を阻止すべく、屈強な男たちを2人のもとへ送り込んでくる。
ほどなくして、イヴァンの両親もロシアから到着するが……。

身分違いの恋という古典的なシンデレラストーリーを、現代風にリアルに映し出す。タイトルロールの
アノーラ(通称アニー)を演じるのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」や
「スクリーム」に出演してきた新星マイキー・マディソン。
アノーラに夢中になるお調子者のロシア新興財閥の息子イヴァン役に、ロシアの若手俳優マーク・
エイデルシュテイン。
第97回アカデミー賞では計6部門にノミネートされ、作品、監督、主演女優、脚本、編集の5部門を
受賞した。(映画com)

<IMDb=★7.7>
<Metascore=91>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:93% Audience Score:89%>
<KINENOTE=80.2%>
<映画com=3.7/5>


by jazzyoba0083 | 2025-03-06 11:50 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)