地獄の英雄 Ace in the Hole

●「地獄の英雄 Ace in the Hole」
1951 アメリカ Paramount Pictures. 112min.
監督:ビリー・ワイルダー ビリー・ワイルダー、レッサー・サミュエルズ、ウォルター・ニューマン
出演:カーク・ダグラス、ジャン・スターリング、リチャード・ベネディクト、ボブ・アーサー、
   ポーター・ホール他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
まだ読み切れない分厚いビリー・ワイルダーの評伝。活字に映画の名前が出てきて観ていないと、
やはり観てみたくなるのは人情だ。ましてや、世に失敗作と言われている本作は、ワイルダーファンと
しては未見で、しかもAmazonプライム・ビデオにあるではないか。さっそく鑑賞。
ビリー・ワイルダーファンとして知られるウディ・アレンも本作は失敗だったといわれ、公開当時も
あまり評判は良くなく興行成績も振るわなかった

が、今見てみればシニカルに過ぎる部分はあるものの、よく出来た面白い(というか興味深い)映画
であることは明らかである。実際にあった事故をベースにしてワイルダーを含む3人で脚本を書いたが、
自分の地位と名誉しか考えない記者によるイエロージャーナリズムとそれに踊らされる愚かな大衆を
赤裸々に描き、公開当時はアメリカとその国民を誤解させるという評価さえあった。

だが、赤狩りが忍び寄るハリウッドの空気感を表したか、ワイルダーには珍しく救いのない全編で、
大衆の狂気そのものを笑い飛ばしているかのような表現がインパクトを与えている。

ストーリーは単純で、インディアンの古い洞窟に金目のものを探しに出かけたニューメキシコ州
の田舎町アルバカーキ(今では大都会だ)のレストラン主人が坑内で土砂崩れに遭い、足を挟まれ
出られなくなった事件を、大酒飲みでニューヨーク他の新聞を追われ、この街の小さい新聞社に
拾われた記者(カーク・ダグラス)が、被害者の命を無視してセンセーショナルに報道し、悲劇的な
結末を迎えるというもの。

改選を迎えるまちの保安官と結託し、他のメディアを排除し、早く助けられるものを自分が注目される
ようになることだけを目指して、大衆を煽りまくる。全米から新聞社はもちろん、ラジオ、当時はまだ
珍しかったテレビ局も中継車を送り込んできた。更に被害者の嫁は、旦那に愛想をつかしており、
この田舎町を抜け出るために金儲けを企み、レストランは押し寄せた大衆で大賑わい、駐車場の値段を
釣り上げ、さらに移動遊園地まで連れてくる始末。

本来なら早く救助出来たのだが、別の救出法を取ったため、男は弱り、記者がそのことに気がついた
ときは既に遅く、ついには亡くなってしまう。一方被害者は妻を愛しており、結婚5周年に妻に毛皮の
襟巻きを買っておいた。記者はそれを妻に差し出すが、安物の毛皮に妻がそれを放り投げると
記者は激怒し、襟巻きで女の首を締めて責めるのだった。しかし女は手元にあったハサミで記者の腹を
刺したのだ。

記者は傷ついた体で大衆に男が死んだことをスピーカーで伝える。あっという間にいなくなる大衆と
メディア。あの騒ぎは何だったのだろう、という感じであった。

ワイルダーは記者の態度、報道姿勢、被害者の妻の態度、そして保身の保安官、全米から特別列車で
駆けつける野次馬たちはホットドッグを食べて遊びながらまるで物見遊山だ。そしてセンセーショナル
に伝えるメディアたち。徹底してシニカルに、これでもかという感じで人間の嫌な面をさらけ出して
見せる。ほとんど自虐的ともいえるほどに。特に記者については、間違いに覚醒するのだが、救いを
与えていない。ワイルダーの評伝では「映画代を払って自分の嫌な面を確認しに来る人がいるだろうか
それにより映画は興行的には失敗したのだ」としている。Paramountは、タイトルをThe Big
Carnival」と変えてみたが小手先で救えるような問題ではなかった。

次の日に観た黒澤映画「悪い奴ほどよく眠る」も出来の割に興収的には失敗だった。大衆が映画に求める
ものは当時と現代ではいささか違っていたということだろう。今でも辛い映画を観るのは嫌だという
人はたくさんいるだろう。私とて、辛い映画を観るのは好まないし、いくらオスカーのミニーでも
トランプを描いた映画を観る気が起きないのはしょうが無いと感じる。

だが、本作はエンタメの中に社会的告発を昇華させることが出来ていると感じるので、(アメリカ人では
ないからかもしれないが)興味深く観ることが出来た、そこはワイルダーの力量であろうと思う。

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<ストーリー>
チャールズ・ブラケットとコンビを組んできたビリー・ワイルダーが、「サンセット大通り」のあと
コンビを解消、独立して初めて製作・監督・脚本(共同)を担当した1951年作品。
ワイルダーと、レッサー・サミュエルスとウォルター・ニューマンが協力して脚本を書いた。

敏腕の新聞記者チャールズ・テータム(カーク・ダグラス)は、勤務中に大酒を飲むという悪癖で東部の
大新聞社から追われ、アルバカーキの小新聞社にしけ込んでいた。しかし、なにか特ダネをつかんで
一流新聞に戻ろうと、テータムは常に機会を狙っていた。そこへ、レオ・ミノザ(リチャード・ベネディ
クト)という男がインディアンの住居だった崖の洞穴に探検に出かけ、生き埋めになる事件が起きる。

テータムは保安官と共謀してレオの救出をわざと遅らせ、この事件をビッグ・ニュースに作り上げ、
自分の名声を高めようとする。事件は忽ち各地に広がり、現場は見物人が押しかけて、カーニヴァルの
ような騒ぎだった。
レオの若い妻ロレイン(ジャン・スターリング)は冷たい女で、見物に来る大勢の人たちにガソリンを
売って一儲けしようと計る。彼女はテータムに惹かれ、彼と恋の火遊びを始めた。テータムは方々の大新聞社
から口がかかり、みごと目的を達したので、レオの救出にとりかかろうとする。だが時すでに遅く、
レオは瀕死の状態になっていた。ロレインはテータムに操られていたことに気づき、真実を暴露すると彼を
脅迫する。テータムは逆上して彼女を絞殺しようとするが、逆に刺された。レオは死に、テータムは瀕死の
重傷を負う。彼はなおデッチあげた特ダネを新聞社に知らせ、自らはこの事件の真相を書こうとして、
遂に死んでゆくのだった。(キネマ旬報)※筆者註:若干ニュアンスが違うと思う

<IMDb=★8.1>
<Metascore=72>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:90% Popcornmeter:92%>
<KINENOTE=73.4点>
<映画com=4.2/5>



by jazzyoba0083 | 2025-05-28 22:30 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)