ケイン号の叛乱 The Caine Mutiny

●「ケイン号の叛乱 The Caine Mutiny」
1954 アメリカ Columbia Pictures. 124min.
監督:エドワード・ドミトリク 原作:ハーマン・ウォーク
出演:ハンフリー・ボガート、ホセ・ファーラー、フレッド・マクマレイ、ヴァン・ジョンソン、
   リー・マーヴィン、ロバート・フランシス、E・G・マーシャル、メイ・ウィン他

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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
戦争中の船の物語は潜水艦ものも含めて秀作が多い。「戦艦バウンティ号の叛乱」「砲艦サンパブロ」
などだ。本作はタイトルは知ってはいたが観たのは初めて。NHKBSで放映があったので録画して鑑賞。
もっと古い時代の話かと思っていたら先の大戦が舞台だった。

アメリカ海軍が掃海艇を一艦貸し切りで提供、サンフランシスコやホノルルの軍港も便宜を図るなど全面協力。
開巻には「アメリカ海軍には叛乱は起きていない」とわざわざ字幕が出て、エンドクレジットにもアメリ海軍に
感謝的な字幕がでるので、海軍の悪口は言えないだろうなとは思う。

したがって、皆さんご指摘の通り、軍法会議が終わってから、弁護士役のホセ・ファーラーがパーティー
会場に来て、小説家フレッド・マクマレイにウィスキーを掛けて、一番悪いのはお前だとなじるシーンで
マクマレイが証人として嘘を付いた事に対し海軍軍人としてあるまじき行動だとし、またその前に、
ハンフリー・ボガートが大西洋で戦っている間、お前らは何をしていたか、と将校らに指摘、ボガートが
過酷な戦争の中で精神を病んだのであって絶対的に悪くはないのだ、とほのめかすシークエンスは、どう
みても海軍擁護のとってつけ付け感が拭えないものだ。かっこいい溜飲を下げるカタルシスのシーンでは
あるが。

恐らく原作では艦長が精神に異常をきたすのは戦争のせいであり、戦争が人間をダメにするという視点
あるのではないかと思うが、本作ではそこまでが滲み出ない恨みが残った。ボガートの艦長は戦争で精神を
痛めた、というより生来の小心者で口先だけで出世してきた男のような感じを受けた。
大西洋での事があるのなら、他の描き方もあっただろう。
IMDbによれば海軍は艦長が狂人であるとの描き方には不満であったため、戦争疲労やPTSDとして描く
ことで製作サイドは折り合ったという。

そのシークエンスを除けば、実写映像の迫力もあり、またボガートの名演もあり、(裁判でのボガートの
告白シーンは本作の白眉だ)また脇を固める俳優たちの存在も好ましく面白く観た。但し、クラブ歌手と
キース少尉の恋愛譚は無くても良かった。海軍全面協力の艦船のシークエンスは迫力があり、また
艦長を解任する大きな事件となった台風のシーンではミニチュアが使われたが、かなり大きなモデルを
使ったと見えて、チャチっぽさを最低限に抑えることが出来ていた。

ドミトリク監督は赤狩りでハリウッドを追われ英国に渡ったものの、後に転向し本作を作っている。
そうした立場から海軍を描こうとすれば、このような演出になるのだろう。原作は未読だが内容は映画とは
大きく異なるという。

軍事オタク的観点からみると、ハルゼー提督に直訴に行く時、ハルゼーが乗っていた空母は番号が33であった。
これはエセックス級空母(USS CV-33) 「キアサージ」と思われる。サンディエゴを母港とし撮影時に
ハワイ沖で訓練中であったという。舞台となったケイン号という掃海艇は存在せず、艦番号18の艦は検索では
出てこなかった。キース少尉がラストで乗船する船は掃海艇から駆逐艦(USS Richard B Anderson,DD-786)
に格上げされていた。
(On 24 November, RICHARD B. ANDERSON departed Korea for Yokosuka. SAR duty followed and on
the 6th of December she headed for Guam and The United States. In January of 1953, Anderson
had the privilege of being selected as co-star to Humphrey Bogart and Fred McMurray in the Caine
Mutiny. At the end of the movie, she steams out of San Francisco as Willie Keith’s new ship.
=from https://dd-786.com)

戦闘中に士官が顔に塗る白いクリームは自分の船が撃った砲弾の火球の熱で火傷するのを防ぐための抗閃光
クリームというらしい。

全体として、ダイナミックな進行とキャストの演技に支えられて佳作に仕上がってはいた。

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<ストーリー>
1943年、プリンストン大学を卒業したウィリー・キース(ロバート・フランシス)は、ナイトクラブの
歌手をしている恋人メイ・ウィン(メイ・ウィン)に別れを告げ、海軍少尉候補生として駆逐艦ケイン号に
乗りこんだ。

ケイン号では艦を切り回しているのは艦長デヴリースではなく、むしろ副官のマリク大尉(ヴァン・ジョンソン)
であったが、間もなく艦長更迭が行われ、新艦長のクィーグ中佐(ハンフリー・ボガート)が着任した。

ウィリーはクィーグのデヴリースとは正反対なキビキビした態度に感心した。魚雷の曳航演習中、クィーグが
1人の水兵を叱責することに夢中になって指揮を忘れたため魚雷の曳航綱が切れてしまうという事件が起きた。
この事故の説明のため、ケイン号はサンフランシスコに入港し、ウィリーはメイとともに休暇を過ごした。

休暇が終わって艦に帰った乗組員たちは艦長が事件の責任を部下一同になすりつけたことを知った。
クィーグへの信頼は一挙に失われた。ケイン号は直ちに機動部隊に加ってクェゼリン群島に向かったが、
この上陸作戦でクィーグは満足に任務が遂行できず、大変な臆病者であることを暴露してしまった。

インテリのキーファー大尉(フレッド・マクマレイ)は彼を偏執狂だといった。事実、クィーグは冷蔵庫の
苺が紛失したといって乗り組員の身体検査をする有様だった。
そんな矢先、艦は猛烈な颱風に遭遇し、艦長に指揮を委せていたら沈没も免れぬと思ったマリクは決然
クィーグに反抗して艦の指揮をとり、皆の応援を得て艦を救った。艦はサンフランシスコに帰港し、
マリクとウィリーは反逆罪で軍法会議に附されることになった。

体勢は明らかにマリクたちに不利だったが、弁護人バーニー・グリーンウォルド中尉(ホセ・フェラー)は
巧妙な質問でクィーグが偏執狂であることを証明し、2人は無罪の判決を受けた。ウィリーはメイと結婚し、
颯爽と新しい艦に乗りこんだ。その艦長はケイン号の前艦長デヴリースであった。(キネマ旬報)

<IMDb=★7.7>
<Metascore=63>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:95% Popcornmeter:87%>
<KINENOTE=69.7点>
<映画com=3.5/5>


by jazzyoba0083 | 2025-08-28 16:15 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)