沈黙の艦隊 北極海大海戦

●「沈黙の艦隊 北極海大海戦」
2025 日本 CREDEUS  AmazonMGM Studios. 配給:東宝 132分.
監督:吉野耕平 原作:かわぐちかいじ
出演:大沢たかお、上戸彩、津田健次郎、中村蒼、松岡広大、前原滉、渡邊圭祐、トーリアン・トーマス、
   笹野高史、江口洋介、夏川結衣、風吹ジュン、酒向芳、リック・アムスバリー、ブライアン・ガルシア他

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<評価:★★★★★★★★☆☆+α>
<感想>
昨年、AmazonプライムでTV版の「シーズン1 東京湾大決戦」を観て大変面白かった(本ブログに投稿
あり)ので、本作は劇場版1作目は未見なれど、いそいそとシネコンに出かけた。平日の昼間だから仕方の
ないこととはいえ中高年男性を中心として結構な入りであった。

さて1作目の振り返りからストーリーを整えて始まる2時間15分は、期待通りであった。ポリティカル
ムービーであり、サブマリンアクションムービーで、双方の緊張が上手くまとめられ、エンターテイン
メントとして高次元で完成されていた。名優たちを揃えた日本の政治家連中は、作中も現実も軽いなあ、
という感じだ。本作が企画された時はウクライナ戦争もイスラエルとハマスの戦争も無かった時代で
映画(コミック)の先進性を感じざるを得ない。

かわぐちかいじの原作(コミックは未体験)は、反戦なのか、好戦なのかよく分からない部分も感じるが、
本シリーズでは、笹野高史と江口洋介の思想(非戦)、あるいは大沢たかおの最終的には兵器のない世界
平和という思想は、間違ってはいないだろう。
本作では更に津田健次郎扮する政治家が「全世界での武器放棄」による世界平和を訴えるプロットが挿入
され、さらに世界平和を希求する側面が強調された感じだった。

しかし畢竟、海江田の行動は殺人装置である武器を不法に使った行動であり、しかも核ミサイルを搭載した
原潜での行動であることを考えると、海江田の行動を是とするか非とするかは悩ましいところだ。
一方で、大国の拒否権発動で機能不全に陥っている国連のことを思う時、海江田のような人物が登場しないと
世界は動かないという裏返しでもある気もする。トランプ一人の「嘘」と「扇動」で世界が動いてしまう
現在の世の中を見ていると余計にそう感じる。

第二次トランプ政権の、国王か!と思われる専制政治が米国で吹き荒れ、調和と寛容を旨とする民主主義が
瀕死に追い込まれている現在、この映画は実に色々なことを考えさせるだろう。
プロデューサーも務めた大沢たかお自身、低迷する日本とその政治、米国追従の姿勢に物申したい姿勢があり、
本作でも「0歩」の演技ではあるが、ある種狂気を含んだ海江田を熱演している。不気味さを湛えている。

一方で、北極海の氷の下での潜水艦同士の戦い、とニューヨーク沖で展開された戦艦群と空からのバトルは、
CGを含め映像の処理が良くできていて、緊張感が継続する。「第一戦速、深度1000」「一番二番魚雷戦
用意」「総員衝撃に備えよ」「アップトリム50」などの海軍潜水艦専門用語の頻発は男の子心をくすぐり、
指揮所の画像を上手く使い、戦況を解説した。ニューヨーク沖の戦いでは、「アクティブソナーだけで米軍艦
を全滅させた」という海江田の論理は、「刀背(みね)討ち」とも言うべき大和武士を感じさせるに十分だった。
日本の政治、潜水艦バトル、アメリカ政治とシークエンスが大きく変化していく転換もテンポ良く上手く
行ったと感じた。

「やまと」があれだけの魚雷や対潜兵器を逃れる様子はいささかご都合主義な匂いもするし、「アップトリム
50」で、潜水艦の巨体が空を飛ぶ、というのも荒唐無稽かもしれないが、なんだか許せてしまう。

キャストだが、日米ともに政治家を役者がやると軽くなってしまうのは仕方が無いが、海江田の
行動に照らしてみると、この作用が先述のように幸か不幸が、本作では良い方に作用していた。狙った
ことでは無いと思うが。

本シリーズはこの後、またAmazonプライムのミニシリーズに以降するのだろうか。コミックでは既に終わ
っていてネタバレなのだが、次作の展開が映像面からとても楽しみな作品である。海外セールス出来るので
はないだろうか。

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<ストーリー>
最新鋭の原子力潜水艦と核ミサイルを手に独立国家樹立を宣言した男たちの運命を描く、かわぐちかいじに
よる大ヒットコミックを実写化した「沈黙の艦隊」の続編。
日本で緊迫の政治戦が展開するなか、〈やまと〉は極寒の氷の世界・北極海で激しい魚雷戦を繰り広げる。

冷たく深い北の海を、モーツァルトを響かせながら潜航する原子力潜水艦〈やまと〉。米第7艦隊を東京湾
海戦で圧倒し、ニューヨークへ針路をとった〈やまと〉は、アメリカとロシアの国境線であるベーリング
海峡に差し掛かかろうとしていた。
だがその時、一隻の潜水艦が背後に迫ってくる……。「核テロリスト〈やまと〉を撃沈せよ――」それは、
ベネット大統領が送り込んだ、〈やまと〉の性能をはるかに上回るアメリカの最新鋭原潜であった。

時を同じくして、日本では衆議院解散総選挙が行われる。〈やまと〉支持を表明する内閣総理大臣・
竹上登志雄(笹野高史)は、残るも沈むも〈やまと〉と運命を共にすることとなる。一方、海江田四郎
(大沢たかお)は、オーロラの下、流氷が浮かぶ北極海で、この航海最大の難局に立ち向かう……。
(キネマ旬報)

<KINENOTE=76.8点>
<映画com=4.0/5>
<Filmarks=3.9/5>




by jazzyoba0083 | 2025-09-29 15:15 | 邦画・新作 | Trackback | Comments(0)