2008年 01月 11日
父親たちの星条旗 Flags of Our Fathers
2006 アメリカ DreamWorks SKG,Warner Bros.Pictures,Emblin Entertainment
132min.
監督:クリント・イーストウッド 製作:スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド他
原作:ジェームズ・ブラッドリー『硫黄島の星条旗』 脚本:ポール・ハギス
出演:ライアン・フィリップ、アダム・ビーチ、ジェイミー・ベル、バリー・ペッパー他
昨年、「硫黄島からの手紙」は映画館で観たものの、こちらは見逃してしまった一作。
これはもう、非常に判り易いメッセージが伝わってくる。
「戦争に英雄なんて存在しないのだ」
そこにあるのは、家族のこと恋人のことを思い、彼らのために命を投げ出そうという絶望的な
戦いであり、殺さなければ殺されるという絶対的な恐怖なのだ。
だれでも一度は目にしたことがある「硫黄島に星条旗を立てる6人の兵士」像。このうち
生存した実在の3名が、国内で味わう英雄が故の悲劇を、その中の一人、衛生兵であった
ジョン・“ドク”・ブラッドリーの息子ジェームズが取材し綴った本を元に、イーストウッドが
見事な「反戦映画」として描いた。2時間12分がちょっとも長く感じない。
しかし、日本人だからなのか、私としては「硫黄島からの手紙」の方により強い共感を覚える。
太平洋戦争の沖縄戦前の最大の激戦地、硫黄島。テニアン島から多数の米軍が押し寄せ、
守るは、全島をアリの巣のように要塞化した栗林中将率いる帝国陸軍数万。
圧倒的物量で責める米軍の前に、相当抵抗はしたものの、日本軍は敵ではなく、全軍玉砕。
最後は、手榴弾での「天皇陛下万歳」自爆。(これは『硫黄島からの手紙』に詳しい)
もちろん米軍側にも、砂浜が死体で埋まるほどの多数の犠牲者を出した。
こうした戦況の中、艦砲射撃で山容が変ったと言われる擂鉢山の山頂に、星条旗が
はためいた。全軍から上がる歓声。ここをきっかけに、米軍が勝てると確信し、兵士たちの
士気は弥が上にも盛り上がり、戦況は更に米軍に有利になったとされる。
しかし、難儀して立てた旗は、軍のお偉方の所望で記念品として降ろされ、変わりの旗が
「後から登ってきた、そこいら辺にいた兵卒」らの手で揚げられた。このシーンが偶然その
場にいたAP通信のジョン・ローゼンソール氏によって撮影され、全米に配信されたのだ。
この写真に目を付けた軍は、旗を揚げていた3人を本土に呼び戻し、そろそろ金欠に
なりかけていた軍資金を集める、戦時国債募集の宣伝隊に利用したのだ。
当の3人には、たまたまそこいら辺にいただけで、必死の思い出旗を揚げたわけではないので
英雄と呼ばれることに非常に抵抗を感じていた。本当の英雄は戦場で死んでいった仲間
たちなのに、というコンプレックスが付いて回った。
会社のPRにしようと近づいてくる家具屋、「私は英雄の彼女よ」と付いて回る頭の悪そうな
女、3人の中にインディアン出身者がいるのだが、あからさまな侮蔑。(日本兵の頭を
トマホークで割ったのか?ハハハハ・・。とか、英雄なのにインディアンお断りの酒場とか)
当時のアメリカの別の側面が見れた。そんなに金欠だったのかと驚きもした。
インディアンの彼は、英雄扱いと侮蔑に耐えられず、再び戦場に帰っていった。
残った二人は国債を買いましょうキャンペーンを引き続きこなして行くのだが・・・。
この映画の原作となった本を書いたジェームズ・ブラッドリーの父、ジョン・ブラッドリーは
戦後、硫黄島のことを語ろうとしなかったという。思い出したくも無い「虐殺」、英雄扱いされ
振り回され道化を演じたことなどは決して口にしたくはなかったのだ。
実は私の亡き父も満州で終戦を迎え、ロシアに抑留される寸前、満州人になりすまして
逃げてきたことの詳しい内容や戦争中のことを多く語ろうとしなかった。そして軍歌が大嫌い
であった。この映画の主人公たちも人殺しのことをどうして胸を張って語れようか、戦争とは
そんなもんではないのだ。
Ryan Phillippe as John"Doc"Bradley
前半に展開される上陸時の大戦闘シーンは、「目を覆いたくなるほど」と言われていたが、
「プライベート・ライアン」を観ているものとしては、あちらの方がえげつなかったと思う。
アメリカは手榴弾と火炎放射器を有効的に使って、蛸壺や地下壕に隠れている日本軍を
殲滅していく様は、沖縄戦の実写フィルムなどで知っている。
また、海を埋め尽くす艦艇、陸続と上陸する舟艇や艦砲射撃などのVFXは、さすがに
ドリームワークスの手になるもので出来がいい。「ローレライ」とは偉い違いだ。
カメラのアングルもいい。使われている俳優は実在の人物に似せて選んだことがラストの
ロールで判る。有名な俳優はいないほうが良かったのは確かだ。
この映画、不思議なほど日本兵の姿が少ない。それがかえって恐怖に繋がるのだが、人物を
出すと、必ずその人物に背景が必要だし、また見ているほうは想像してしまうので、出さない
方が正解だったろう。その部分が『硫黄島からの手紙』に集約されたのだろう。
イーストウッドと言う人は、あからさまに反戦を言わず、戦争がいかに愚かしいかを事実を
積み重ねることにより描いて見せて見事である。
あの有名な写真の背景にこんな秘密があったのか、と納得しながら、しっかり戦争のおろか
しさが胸に沁みているのである。テニアン島から船で硫黄島へ向かう途中、一人の兵士が
海に転落するシーンがあるのだが、一列に並んで船隊を組んでいるとき、船は止まれない
のだ。だから、落ちた兵士は、見捨てられていく。戦争ってそいうもんなんだ。
尚この映画の詳しい情報は
こちらまで。
『アメリカから見た硫黄島 戦争を終わらせた一枚の写真。その真実。』 コチラの「父親たちの星条旗」は、硫黄島の戦いをアメリカ側の視点で描いたクリント・イーストウッド監督作品なんですが、10/28公開になったので、観てきちゃいましたぁ〜♪ 確か教科書にも載...... more