2018年 09月 03日 ( 1 )

奇跡 (是枝裕和2011版)

●「奇跡」(是枝裕和2011版)
2011 日本 白組、ギャガ、「奇跡製作委員会」 128分
監督・原案・脚本・編集:是枝裕和
出演:前田航基、前田旺志郎、大塚寧々、橋爪功、樹木希林、阿部寛、長澤まさみ、中村ゆり、りりィ、原田芳雄
   オダギリ・ジョー、夏川結衣、他。
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<評価:★★★★★★★☆☆☆+α>
<感想>
是枝裕和作品鑑賞シリーズ、第4作目。製作順に見ていなので、比較的時代を遡る(今から7年前)
作品に、「三度目の殺人」や「万引き家族」を作った監督のイメージを重ねることがやや難しい部分も
あるというのが正直なところ。この年の「キネ旬年間ベスト」では24位、「映画芸術」では、ベストにも
ワーストにも入らず。評論家の先生方には、引っかからなかった作品ということだな。
だが、是枝家督の表現しようとしている根本はなんら変わっていない。(題材や表現方法は変化しているが)
それは「家族」であり「人への想い」だ。

本作の主役は子供。そしてそれを囲む大人たちの想いが重なり恐らくは見る人の殆どは大人だと思うけど、
相乗効果を生み出している。主役の大阪弁子供漫才、「まえだまえだ」の起用を好ましく思わない人も
いただろう。確かにクセのあるキャラクターだ。特に弟は。だが、幸いにして私は「まえだまえだ」を
詳しくは知らなかったので、バイアスなしで観ることができた。弟は確かにクサさが出ていて気になる所は
あるが。

さて、今回は父母の離婚で、離れ離れになった兄弟が、九州新幹線の一番列車の上下がすれ違う時、奇跡が
起きるという噂を聞き、マジで友人を巻き込み、これに挑戦する、というのがメインストーリー。
兄、航一は鹿児島の母(大塚寧々)の実家(営業を止めた菓子屋)に暮らす。祖父は橋爪功、祖母は樹木希林。
一方、博多でインディーズレベル程度のミュージシャンで食うや食わずの生活をしている父(オダギリ・ジョー)
と暮らす、お調子者の弟、龍之介。

航一は桜島の火山灰を「意味わからんわ!」と嘆きつつ、鹿児島の暮らしに今ひとつ慣れない。彼は奇跡の噂を
クラスメートから聞きつけ、「大阪で暮らしていたように家族四人がみんなで暮らせる」奇跡を夢見る。
一方、博多で暮らす弟龍之介は結構あっけらかんとしていて、けっこう女の子の友達が多かったりする。
時々電話でやりとりする兄弟だが、最初のウチ、弟は、また家族で暮らそうという兄の誘いに乗り気ではなかった。
しかし、それはあまり深く考えない龍之介、女の子3人に「奇跡がおこるんやて」と誘い込み、一番列車がすれ
違う、熊本は宇土あたりにでかけることにしたのだ。

本作においての子どもたちの落とし所は、すれ違う新幹線に願いをしたのではあるが、兄は結局、「家族が
再び一緒に暮らせますように」というものでは無かった。「世界を選んだわ」と弟に言う。ここにある。
これは以前、福岡の父と電話で話した際、一緒に暮らしたい、という航一に、父オダギリ・ジョーが「おまえ
にはさ、もっと、好きなことをやって欲しいな。音楽とか、世界とか」と云われていたことがあったからだ。
その時は「世界、って意味わからんわ!」と言っていた航一であったが、弟や旧友らと旅したことで、
(おじいちゃんが新しいカルカンに挑戦しようとしたことも含め)親子4人の、また人それぞれの向かう
世界を理解し始めたのだ、つまりひとつ成長した、という証左であったのだ。
それは、弟龍之介と一緒に熊本へ来た級友恵美(内田伽羅=本木雅弘の長女=樹木希林の孫)が上京し
女優を目指すという意志を固める宣言にも表現される。

子供ながら、周囲の大人や友人を見つつ、(兄の場合、カルカンを復活させようと努力はする祖父の姿であり、
スーパーのレジ打ちはいまさら嫌だな、といいつつレジを打つ母であり、フラダンスに精を出す祖母の
姿であり、愛犬の蘇生を願うも奇跡は起きなかった級友の存在であり、バンドをやりながらも夢は追っている
父の姿であり、福岡で級友と楽しくやっている弟の存在であったわけだが)、世間、社会、自分の生きる世界
とはどういうものなのか、それまでは「意味わからんわ」と言ってたのが、1つ階段を上がったということだ。
それは、ラストシーンで、あれだけ火山灰を嫌っていた航一が、「今日は積もらんな」と風向きから判断して
いる光景に端的に映像化され表現されている。

子供が主役の映画ではあるが、実は、レジ打ちの母、売れないミュージシャンの父、カルカン製造を一旦
止めたものの、一念発起して、もう一度作ってみようと挑戦した祖父、フラダンスの祖母、そして友人との
旅行、万事休すの場面で恵美が「おばあちゃんち」と警官を騙してお世話になった、高橋長英とりりィの
夫婦の存在というように大人たちの(大人たちへの)想いが、強く影響しているという姿を描き出している。
だから本作は子供が主役ながら、描かれている主張は、大人の感性に強く訴えるものとなった仕上がりなのだ。

さりながら、子供独特の世界観、たとえば図書担当の先生(長澤まさみ)の自転車のベルをガジェットに
した級友の、先生に対する淡い想い、それは保健の先生(中村ゆり)の存在でも言えること、だったり、
ドキュメンタリーディレクター出身の監督らしく、敢えてジャンプカットを使った子どもたちのインタビュー
映像、兄弟と級友らで繰り広げる冒険譚には、きちんと子供からの視点が描かれているところも是枝監督らしい
丁寧さ、表現のこだわりであると感じた。もう少し冗漫なシーンをカットしてあと10分ほど短くしたら
もっと締まったのではないか。「人への優しい視線」をたっぷり味わった映画であった。

しかし、たった7年前の映画ですら、原田芳雄とりりィは鬼籍に入ってしまった。時間は残酷だ。
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<ストーリー>
「誰も知らない」「歩いても 歩いても」の是枝裕和監督が小学生兄弟漫才コンビとしてお茶の間でも
人気の“まえだまえだ”を主役に大抜擢し、2011年3月に全線開業した九州新幹線をモチーフに紡ぐ感動の
家族ドラマ。両親の離婚で離れて暮らす兄弟を中心に、願いが叶うと噂される“九州新幹線の一番列車が
すれ違う瞬間”を目撃しようと、様々な思いを胸に奮闘する子どもたちの大冒険の行方を瑞々しいタッチで綴る。

 小学6年生の航一と小学4年生の龍之介は仲の良い兄弟。しかし両親が離婚してしまい、それぞれの親に
引き取られた2人は鹿児島と福岡で離ればなれに暮らしていた。
ある日、九州新幹線の一番列車がすれ違う瞬間を目撃すれば願いが叶うという噂を耳にした航一。再び家族
4人の絆を取り戻したいと願う彼は、龍之介と連絡を取り、一緒にすれ違う現場に行こうと約束する。
こうして兄弟は、それぞれの友だちや周囲の大人たちを巻き込みながら、奇跡を起こすための無謀な計画を
進めていくのだが…。(allcimena)

<IMDb=★7.4>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer: 93%  Audience Score:84%>
<KINENOTE=一般投票=72.6点>








by jazzyoba0083 | 2018-09-03 22:50 | 邦画・新作 | Trackback | Comments(0)